移民・難民排斥 世界に争いの種まくな - 東京新聞(2017年2月2日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017020102000137.html
http://megalodon.jp/2017-0202-1007-39/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017020102000137.html

これが、自由と人権尊重を標ぼうする国のやることか。トランプ米大統領が打ち出した中東・アフリカ七カ国の国民締め出しとメキシコ国境の壁建設だ。世界に争いの種をまく暴挙でしかない。
世界中で抗議行動が巻き起こっている。トランプ氏は移民・難民の入国規制を「イスラム教徒の入国禁止ではない」と釈明するが、反イスラムを公言してきた人物だ。信用できない。
米国はテロとの戦いにあたり、少なくともイスラム世界との「文明の衝突」にならないよう配慮してきた。
逆にトランプ氏のやり方はイスラム世界の反発を招き、「イスラム国」(IS)など過激派勢力を利するだけだ。世界の分断を進め不安定化させる。米国でも人種対立が深まるだろう。
米国内だけでなく国際社会も撤回を求めているのは喜ばしい。安倍首相もその輪に入って声を上げるべきだ。
不法移民の流入阻止を狙った壁の建設では、トランプ氏は費用をメキシコに払わせると主張する。その傲慢(ごうまん)ぶりにメキシコは反発。両国関係は一気に険悪化した。
米国にとってメキシコは第二の輸出先であり、第三の輸入元だ。メキシコからすると、輸出全体の八割が米国向け。両国は相互依存の関係にある。
ところが、トランプ政権はメキシコの輸入品に20%の課税をする構えも見せている。一方的な課税強化は世界貿易機関WTO)のルール違反に当たるが、現実になった場合はメキシコも報復に出て貿易戦争に発展する。
しわ寄せは、高いメキシコ製品を買わされる米国の消費者にいく。緊密な通商関係を破壊すれば、自分も損害を被るのが分からないのだろうか。
冷戦時代、中南米の多くの国で米国に後押しされた軍事政権が威を振るった。その後遺症で反米感情は根強くある。二〇一五年に米国がキューバと国交を回復したことで改善されたが、メキシコとの関係悪化の余波は中南米全域に及び、それを台無しにしかねない。
そうなれば、米国は自分の「裏庭」と見なすこの地域で影響力を後退させ、安全保障環境も悪化するだろう。