<生活保護>「施し」ではなく「権利」という常識 - 毎日新聞(2017年1月23日)

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1950年に施行された生活保護法は、自立できない怠け者の国民に施しを与える慈愛深い制度ではありません。健康で文化的な最低限度の生活を送るために、足りないお金を国家が補助する制度です。その仕組みを解説します。【NPO法人ほっとプラス代表理事・藤田孝典】
生活保護制度は、次の四つの原理で構成されています。
困窮する国民を国の責任で保護し、自立を促す「国家責任の原理」▽困窮の理由を問わず、誰でも困窮していれば保護を受けられる「無差別平等の原理」▽健康で文化的な生活水準を維持できる「最低生活保障の原理」▽利用し得る資産、能力その他あらゆるものを活用することを要件に保護を受けられる「補足性の原理」

◇8種類の扶助の合計が「生活保護
生活保護の金額は全員一律で、働かないでも大金が手に入る」という言説を信じる人の多さに、時々目がくらみます。国家が設計した制度がそう簡単であるはずがありません。
生活保護は法律に基づく総称で、その中身は8種類の「扶助」と各種加算で成り立っています。必要即応の原則に沿って、世帯ごとのニーズに合わせて現金と現物を支給します。扶助の内訳は以下の通りです。
(1)生活扶助=1類は食費、衣料費など、2類は光熱費、家具、家事用品など
(2)住宅扶助=家賃、補修費など
(3)教育扶助=義務教育で必要な学用品など
(4)医療扶助=医療費、通院費など
(5)介護扶助=在宅介護費用、介護施設入所費用など
(6)出産扶助=出産のための費用
(7)生業扶助=就労に必要な費用、高校就学費など
(8)葬祭扶助=葬儀に必要な費用

全員一律ではなく、地域や年齢、世帯人員に応じて項目ごとに金額が細かく設定されています。保護を受ける際の目安は、収入がその地域の最低生活費(生活扶助基準)を下回っているかどうかです。
私たちのNPO法人「ほっとプラス」があるさいたま市を例に、具体的な金額を出してみます。厚生労働省によると、首都圏の政令指定都市であるさいたま市は各種物価や住居費が高い場所とされ、「1級地−1」です。級地は3級地ー2までの6段階に分かれます。

さいたま市の1人世帯の場合は
さいたま市では、家賃がかかっていれば、住宅扶助費として上限月4万5000円(1人世帯の場合、2人世帯は5万4000円)が支給されます。生活扶助費は1類+2類でおよそ7万9000円(1人世帯)。これは年齢や世帯人員で違います。単身者が暮らすために、住宅扶助と生活扶助で計約12万4000円程度が支給されます。
病気の人は、福祉事務所で医療券を発行してもらい、生活保護法の指定病院で受診する時にそれを見せます。いわゆる医療の現物支給です。
また、身体障害者手帳を持つ人は、1〜2級で約2万6000円の障害者加算があり、子ども1人の母子世帯では約2万2700円の加算があります。妊産婦加算、冬期加算もあります。
その地域の生活保護基準は、その他に必要な生活サービスを規定する指標にもなっています。どの自治体も、生活保護基準を就学援助制度の基準や、非課税世帯の認定基準にしています。保護基準の1.2倍〜1.3倍の収入しかなければ低所得世帯とみなされ、支援対象になります。いろいろな制度の根幹となるものとして機能しています。

◇役所では相談ではなく「申請」を
生活保護は原則、申請主義です。本人が自分で、もしくは同居の親族が窓口に行き、「困っています」と申請しなければなりません。申請が可能でない場合は福祉事務所による職権保護もあります。
申請の際にもっとも注意してほしいのは、窓口で「申請に来ました」とはっきりと伝えることです。「相談に来た」と言うと、相談扱いで追い帰されることがあります。
申請意思を伝えるのは口頭で構いません。意思さえ明確に伝えれば、役所は申請用紙を出すことになっています。「生活に困っています。どうしたらいいですか」ではなく、「生活に困っているので生活保護を申請します」と言ってください。
申請の際は、シャチハタではない印鑑を持っていってください。できれば預金通帳と、賃貸住宅に住んでいる場合は家賃額が分かる契約書も持っていきましょう。困窮度合いが分かる書類を持っていくと話が早い、ということです。
申請書を書くとき、職員から困窮の度合いと理由を細かく聞かれます。手持ち現金も聞かれます。資産がないことを証明するためです。自治体によっては、書類を持ち帰って、いろいろ調べて記入して持ってきてくださいというところもあります。聞き取りと記入に1時間、申請し終わるまで3時間ほどかかることもあるからです。

◇家や車を持っていても受給できる場合がある
現金や預金があると、受給に至らない場合があります。1カ月の生活扶助費7万9000円を超える現預金があると、使い切ってから申請してくださいと言われます。困窮しているかどうかの基準です。
例えば、病気や仕事を失って収入がなくなった人の銀行口座に10万円の預金があると、生活保護を申請はできますが、決定後、初月は10万円を除いて支給されます。口座の10万円が収入認定されるからです。
持ち家や車については、その時点で収入がないなら、保有していても当然に申請は可能です。資産をすぐには売却できないからです。場合によっては、受給後に売却して保護を停・廃止し、返還することもあります。
車がないと生活できない場所に住んでいたり、通院や保育に必要という理由があれば、継続保有が限定的に認められます。持ち家も処分価値が低く、住み続ける方が活用価値が高くなる場合は、保有が認められています。
虚偽申請が発覚すると、停廃止になることがあります。支給額の返還を求められたり、不正受給として刑事罰を受けたりします。当たり前ですが、正しい内容で申請をしてください。