「共謀罪」法案 立法の必要性はあるか - 秋田魁新報社(2017年1月18日)

http://www.sakigake.jp/news/article/20170118AK0012/
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2020年東京五輪パラリンピックに向け、政府はテロ対策などを強化するため「共謀罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を、今月20日召集の通常国会に提出する方針だ。犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象となる共謀罪を盛り込んだ改正案は過去3度にわたり国会で廃案となっているが、今回の改正案では罪名や構成要件などを見直して成立を図るという。
日本の刑法は着手された犯罪(未遂含む)を罰するのが原則である。しかし、今回の改正案では過去に審議された共謀罪と同様に犯罪の計画段階で摘発できる上、構成要件などの定義が曖昧なため人権侵害の恐れがあると日弁連などは指摘する。国会では問題点を洗い出し、立法の必要性について徹底的に審議する必要がある。
今回の改正案では、罪名を共謀罪ではなく「テロ等組織犯罪準備罪」に変更し、適用対象は「組織的犯罪集団」に限定。単なる謀議だけでなく、犯罪を実行するための資金や物品調達などの「準備行為」を構成要件に加えた。
しかし、組織的犯罪集団や準備行為の認定は捜査機関に委ねられることになり、恣意(しい)的な運用に対する懸念は依然払拭(ふっしょく)できない。例えば改正案では組織的犯罪集団について「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」と規定しているが、各弁護士会は「そのような団体を明確に定義することは困難であり、解釈によっては適用対象が拡大する危険性が高い」と指摘している。
民進党などの野党は、テロ等組織犯罪準備罪の対象となる犯罪の多さも問題視する。政府が当初適用を想定していたのは懲役・禁錮4年以上の犯罪全てで、その数は殺人や窃盗など676に上っていたからだ。
最近になって政府は、公明党への配慮からテロの手段となり得る犯罪を中心に200〜300程度まで絞る方向で検討を始めた。国会召集を目前にして対象犯罪の絞り込みもできていないのは、改正案が不完全なものであるという証しだろう。
罪名変更などからは、五輪やテロ対策を前面に掲げれば国民の批判をかわせるという政府の思惑も透けて見える。
政府は、テロ対策で各国と連携を強化するには国連が00年に採択した国際組織犯罪防止条約の締結が不可欠で、締結の要件として共謀罪などの法整備が必要と主張する。しかし日弁連は、組織犯罪については計画段階で取り締まることができる法律が既に整備されているとして「新たな立法をしなくても条約を締結することは可能」と指摘。現行法を駆使すればテロ対策にも対応できるとしている。
今回の改正案が成立すれば捜査機関の権限が一層拡大し、通信傍受の強化などによって監視社会につながるのではないかと危ぶむ声が根強い。国会では慎重な審議が強く求められる。