外国人との共生 生活者として受け入れを - 朝日新聞(2017年1月10日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S12739714.html?ref=editorial_backnumber
http://megalodon.jp/2017-0110-1011-37/www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=comtop_shasetsu_01

いわゆる移民政策は考えない。これが政府の方針だ。
「いわゆる移民」とは何か、政府は語らない。ただ、欧州を中心に移民・難民がさまざまな摩擦を生んでいる現状を見て、「移民」に神経をとがらせる。
その一方で、外国人の受け入れは広げている。代表例が技能実習制度だ。期間を3年から5年に延ばし、対象職種は70を超える。約20万人が実習として各地の企業や農漁村で働く。

■本音と建前使い分け
途上国への技能伝達が目的で単純な労働者受け入れではない、というのが政府の見解だ。だが、人手不足を埋める手段になっているのは公然の事実だ。
外国人が頼みの綱で、教育に熱心な企業には「せっかく育てたのに、帰国してもらっては困る」との不満が強い。かたや、時間外労働や賃金不払いなどの法令違反があったのは年間3600事業場にのぼる。
移民について国際的な定義はない。だが、国連は広くとらえるのが一般的との専門家らの意見を紹介し、人としての権利と尊厳を尊重するよう求める。
政府は受け入れ先への監視を強めることなどを決めたが、態勢はこころもとない。もはや、「本音」と「建前」の使い分けは限界ではないか。
日本で暮らし、働く意欲と覚悟がある外国人は、単なる労働力ではなく生活者として迎えるべきだ――。人手が足りない企業から、過疎化が深刻な地方から、そんな声が高まっている。
「建前」に頼った構図は、バブル末期の人手不足を機に門戸を開いた日系人にも共通する。
自動車関連の工場が集まる浜松市。22棟が並ぶ同市中区の県営住宅は、約1500人の4人に1人が日系人ら外国人だ。

自治体からの訴え
自治会長の橋本博行さん(73)には、入居まもない外国人家庭への苦情が寄せられる。ゴミの捨て方を守らない。夜中に大きな音を出されて困る……。
日系人は血がつながっており、いわば「里帰り」だから、単純な労働者の受け入れではない。これが政府の理屈だったのだろう。だが、橋本さんは言う。「ルーツは日本でも、日本の文化や慣習をほとんど知らないし、日本語もできません」
入居してくる若い世帯は日系人が大半で、日本人は入居数十年のお年寄りばかり。「自治会を維持するのも、外国人に頼らざるをえない」。橋本さんは2年前、長く暮らすブラジル人を自治会の副会長にすえた。
全国の都市で日系ブラジル人を最も多く受け入れた浜松市は国の政策に翻弄(ほんろう)されてきた。08年のリーマン・ショック後は、失業者にお金を渡して帰国を促す国の制度によって半減した。最近は再び転入者もみられ、就職の問い合わせや子どもの教育相談が市の窓口に相次ぐ。
外国人労働者の受け入れや外国人住民との共生は、いまや国全体で共有すべき課題だ」。外国人が多く住み、不可欠の存在になっている浜松市など約30の自治体でつくる「外国人集住都市会議」は繰り返し訴える。

外国人を受け入れていくために、何が必要なのか。
過疎化が進む秋田県能代市では二十数年前から、花嫁として来日し、定住する女性がいる。当時から日本語教室を開く北川裕子さん(66)が強調するのは「互いの壁をつくらず、お隣さんとして付き合う」という、ごく当たり前のことだ。
季節ごとの行事を通じて地元の風習や伝統を伝える。夏の盆踊りでは、外国人を敬遠しがちだったお年寄りらが交流の輪に加わるようになった。

■未来への投資として
北川さんがいま、気にかけるのは、外国人の母親から生まれた子どもたちのことだ。親の離婚で母子家庭になった子も多く、日本語の力が十分でない。
北川さんは、小学校に出向いて個別指導もしている。「この子たちは、将来の私たちを支えてくれる地域の宝です。大事に育てる仕組みが必要です」
日本で働く外国人は、在日韓国・朝鮮人らの特別永住者のほか、国への届け出によると90万人余(15年秋時点)。内訳は、日系人や日本人の配偶者らが36万人余、留学生のアルバイトらは19万人余、技能実習生と専門技術・知識を持つ「高度人材」がそれぞれ17万人弱だ。技能実習生はすでに20万人を超えており、総数は近く100万人を突破しそうだ。
「未来への投資として、定住外国人を積極的に受け入れていくことが求められている」
政策提言をする財団法人「未来を創る財団」は、自治体や企業関係者を交えたシンポジウムを重ね、昨年末に提言をまとめた。財団のメンバーで日本国際交流センターの毛受(めんじゅ)敏浩執行理事は「外国人の受け入れは、地域社会を活性化させるテコになる」と指摘する。
まずは現実を直視し、議論を始めたい。政府と国民がともに考えるべき課題である。