(筆洗) - 東京新聞(2017年1月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017010402000118.html
http://megalodon.jp/2017-0104-0922-44/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017010402000118.html

米喜劇コンビ、アボットコステロの有名な十八番スケッチ(ギャグ)に「誰がファーストベース(一塁)を守っているんだ」(フーズ・オン・ファースト)という作品がある。
筋は単純。コステロがある野球チームの一塁手は誰だったかと聞く。アボットは、「WHO」と答える。「WHO(フー)」という名の選手が一塁手なのだが、コステロは「誰?」の意味だと思い込み、混乱していく。「誰なんだと聞いている」「だから、フーだって」。一九三〇年代の作品だが今も笑える。
この人は新年、ファーストに「平和」を起用した。この場合の「ファースト」は最優先に考えるの意味である。第九代国連事務総長に就任した元ポルトガル首相のグテレス氏。「新年に私の決意を共有してほしい。平和を第一にすると心に決めよう」と強調した。
無論、トランプ次期政権が掲げる自国の利益のみを最優先する、「アメリカ・ファースト」など内向きな国際潮流への批判が念頭にあろう。我田引水の発想ではなく、全人類に等しく利がある「ピースファースト」。それを唱えた人に期待したい。
願いもむなしくトルコやイラクでテロとおぼしき事件が起きた。二〇一七年も不穏な幕開けとなってしまったが、あきらめまい。
グテレス氏の言葉に、この時季の七十二候を重ねたい。「雪下(せっか)麦を出(い)だす」。雪はまだおそろしく深いが。