南スーダン 流血回避の努力こそ - 朝日新聞(2016年12月27日)

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日本政府の判断に、強い疑問を禁じえない。
南スーダンに武器禁輸などの制裁を科す、国連安全保障理事会の決議案が廃案になった。
決議案を主導した米国は、根深い民族対立が大量虐殺に発展することへの危機感から、武器流入の阻止を模索してきた。
これに対し、日本やロシア、中国など8カ国が棄権したことで廃案となった。
日本政府はなぜ、米国とたもとを分かってまで棄権に回ったのか。
背景には、現地の国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊の存在がある。
南スーダンは政府軍と反政府勢力が対立し、事実上の内戦状態にある。
そんななかで政府は先月、派遣部隊に「駆けつけ警護」の新任務を付与した。派遣部隊に協力してくれる現地政府に制裁を科せば、反発を買い、危険度がいっそう高まりかねないとの判断がある。
また、決議案に賛成すれば、日本政府が現地の危機的な状況を認めることになる。紛争当事者間の停戦合意など「PKO参加5原則」に改めて疑問が突きつけられ、自衛隊派遣の根拠が揺らぎかねない。
一方で、制裁の実効性には疑問の声もあった。
南スーダンの政府軍は石油収入で武器を輸入し、それが反政府勢力にも流れるなど、すでに全土に蔓延(まんえん)している。内陸国の同国は、周辺国からの流入を止めるのは難しい。そんな状況下で武器禁輸の制裁を科すことに、どれほどの効果があるのか。いまは南スーダン政府の和平への取り組みを優先すべきではないか。そんな疑問だ。
だとしても、少しずつでも現地への武器流入を減らし、武装解除を進めることが、長い目で見て南スーダンの「国づくり」を進め、国民に平和と安定をもたらすことにつながる。
そのために、今回の決議案はひとつの契機となりえた。それを後押しし、実効性を高めるよう努力することが、日本の役割だったのではないか。
日本政府は今回の棄権によって、陸自部隊の活動継続と安全確保を優先し、武器禁輸に後ろ向きであるかのようなメッセージを国内外に発信してしまった。極めて残念だ。
そんな意図はないと言うのなら、日本政府は武器禁輸に向けて動くべきだろう。
内戦状態が大規模な流血の惨事に発展するのを避ける外交努力こそ、日本を含む国際社会の責任である。