(余録)「子供はここから地上に生まれて… - 毎日新聞(2016年12月27日)

http://mainichi.jp/articles/20161227/ddm/001/070/077000c
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「子供はここから地上に生まれてゆくのですよ。おとうさんやおかあさんが子供が欲しいと思うと、あの扉が開いて子供たちは降りて行くのです」。チルチルとミチルが訪れた「未来の王国」である。
メーテルリンクの「青い鳥」の未来の王国では、これから生まれる子供たちがそれぞれ地上にもたらすものを用意しながら誕生の時を待っている。「生まれるっていいことなの?」。そこにいた一人の子供に尋ねられるとチルチルは答えた。「ああ、おもしろいよ」
だがいざ地上への船出となると、生まれたくないとだだをこねる子もいる。子供らを送り出す老人「時」がたしなめた。「もう時間だぞ。みんなは不正と戦う英雄を求めている。それがお前だ。出発しなけりゃいかんぞ」。子供が地上にもたらすものはさまざまである。
厚生労働省が発表した2016年の人口動態統計(じんこうどうたいとうけい)の推計によると、今年生まれの赤ちゃんの数は統計開始以来初めて100万人を下回る見通しという。出生数98万1000人は死亡数を31万人以上も下回る。人口の自然減は過去最大となり、加速しているというのだ。
1970年代前半の出生数は200万人を超えていたから、40年余で半分になったことになる。「すべての赤ちゃんは神が人間に絶望していないというメッセージを携えて生まれてくる」とはインドの詩人の言葉だが、そんな神様からの伝言も半減してしまったのか。
チルチルとミチルには未来の王国の船を歓迎する地上のおかあさんたちの喜びと希望の歌声が聞こえた。赤ちゃんたちを迎え入れる地上の喜びと希望は、この世に生きる者が立て直すしかない。