同一賃金の指針 口約束で終わらせるな - 東京新聞(2016年12月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016122602000128.html
http://archive.is/2016.12.26-003744/http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016122602000128.html

非正規労働者の待遇改善につなげてほしい。政府は「同一労働同一賃金ガイドライン(指針)案」をまとめた。ただ、指針の基となる法律はこれから策定するとしており、実効性が課題だ。
安倍晋三首相は、政府の会議で「不合理な待遇差を認めないが、わが国の労働慣行には十分、留意した」と胸を張った。
非正規労働者と正社員の待遇格差を是正するための指針案は、雇用形態にかかわらず仕事の内容が同じなら賃金も同じにする「同一労働同一賃金」への第一歩になると評価できる。
通勤手当や出張旅費、時間外労働手当、慶弔休暇などでは待遇差を認めず、同一の支払い、処遇をするよう求めた。賞与についても、正社員に支給して非正社員に払わないのは「悪い例」と明記し、業績への貢献が正社員と同じなら「同一の支給」とした。
厚生労働省の調査では、正社員とパートの両方を雇っている事業所のうち、正社員に賞与を払っているのは八割を超えるのに対し、パートへの支給は四割に満たない。慶弔休暇をパートに認めている事業所は四割程度だ。見直しを迫られる企業は多いだろう。
基本給についても、経験や能力、実績などが「同じなら同一の支給をし、違うなら違いに応じた支給をしなければならない」との基準を示した。格差是正に向けて一定程度の前進は見込めそうだ。
しかし、そもそもこの指針案はどういう位置付けのものだろうか。というのも、指針の法的根拠となる関連法の改正はこれから議論するのだ。そして、指針が効力を持つのは、改正法が施行される時だという。
改正案を検討する段階で、人件費の負担増を嫌う経済界の反発で内容が後退する懸念は拭えないし、改正法が成立にこぎつけなければ、当然、指針も効力を持つことはない。日本労働弁護団幹部は「ただのアリバイづくりではないか」と警戒する。
全労働者に占める非正規労働者の割合は四割近くに達し、正社員に対する非正規の賃金水準は六割弱にとどまる。政府は「欧州並み」の八割程度に格差を縮めるという目標を打ち出している。実現するかは、法改正の行方を見極めねばなるまい。待遇差に関する企業側の説明責任を強化するという課題も残っている。
非正規労働者の待遇底上げを、単なる“スローガン”で終わらせてはならない。