防衛費5兆円超 「節度」なき膨張を憂う - 東京新聞(2016年12月24日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016122402000157.html
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防衛費はどこまで膨らみ続けるのか。東アジア情勢が厳しさを増しているとしても、際限なく増やしていいわけではない。国民を守るための防衛力整備が、軍拡競争の引き金を引いては本末転倒だ。
二〇一七年度予算案で、米軍再編関連経費などを含む防衛費は一六年度比1・4%増の五兆一千二百五十一億円。過去最大である。第二次安倍内閣発足後に編成した一三年度予算以降、防衛費は五年連続の増加だ。
政府は、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射や核開発に対応するとともに、中国の海洋進出を念頭に南西諸島の防衛力を強化するためとしているが、厳しい財政状況下では突出した「厚遇」ぶりである。
国民の命と暮らしを守るために防衛力を適切に整備することは政府の崇高な役目だ。そのために必要な予算を、国民の理解を得て支出することは当然だろう。
とはいえ、五兆円を超える巨額の予算だ。その支出が本当に適切かどうかは、常に精査されなければならない。社会保障や医療、介護など私たちの暮らしに直接かかわるほかの予算とのバランスも考慮する必要がある。
三木内閣は一九七六年、防衛費を国民総生産(GNP)比1%以内とすることを決めた。中曽根内閣が八七年度予算から1%枠を撤廃した後も「節度ある防衛力の整備」に努め、防衛費はおおむね国内総生産(GDP)比1%を上回らない状態を維持している。
専守防衛に徹し、再び軍事大国にならないとの決意でもある。
しかし、安倍内閣が一三年十二月に決めた新しい防衛計画の大綱から「節度」は消えてしまった。
新防衛大綱と同時に閣議決定した中期防衛力整備計画で、一四年度から五年間の防衛費の総額は二十三兆九千七百億円程度の枠内と定められているが、このまま増え続ければ、当初予算だけで二十四兆円弱という枠を突破する。
毎年二千億円程度の補正予算分を含めれば、さらに膨れ上がる。物価や為替の変動を考慮するとしても自ら決めた枠を守れるのか。
情勢の変化に応じて防衛力の在り方を見直すとしても、防衛費を「節度」なく増やしていいわけがない。周辺国に軍備増強の口実にされれば、日本を守るための防衛力整備が、軍拡競争を招き、逆に脅威が高まる「安全保障のジレンマ」に陥る。
防衛力整備に再び「節度」を取り戻し、地域情勢の安定化に向けて知恵を絞るべきである。