(筆洗)美しく輝くクリスマスツリーのように花の都を彩るエッフェル塔の照明が消され、塔は闇に沈んだのだ。 - 東京新聞(2016年12月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016122302000145.html
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先週の水曜日の夜、パリでちょっとした異変が起きた。今の季節なら、美しく輝くクリスマスツリーのように花の都を彩るエッフェル塔の照明が消され、塔は闇に沈んだのだ。
五年余も続くシリア内戦で、激戦の地となったアレッポ。街の灯が消え、恐怖にさいなまれながら、逃げることもできない。そんな中東の古都の住民に、思いを寄せるための消灯である。
歴史の歯車が少しずれて回れば、パリは現在のアレッポのように、廃虚になるところだった。第二次世界大戦中、ヒトラーは連合軍のパリ進攻を前に、その徹底的な破壊を命じた。凱旋(がいせん)門もエッフェル塔も、爆破される計画だったが、パリは救われた。
この史実を題材にした映画『パリよ、永遠に』で、中立国スウェーデンの外交官は、エッフェル塔を望む部屋で、ドイツ軍の司令官を静かな口調で、説得する。「破壊する将軍は多いが、何かを築ける者は少ない。パリの存続は君次第だ。征服者と同じぐらいの名誉に値すると思うがね」
ここ一週間で、アレッポから数万人が脱出したとされる。しかし、人々を待っているのは、飢えや寒さだ。国連UNHCR協会(電話0120−540−732)や国境なき医師団日本(0120−999−199)は、緊急支援のための寄付を呼び掛けている。
何かを確かに築くため、遠い日本からでもできることはあるはずだ。