<子どものあした 保育士の役割> (中)見えにくい専門性を認めて - 東京新聞(2016年12月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201612/CK2016121902000114.html
http://megalodon.jp/2016-1219-0924-44/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201612/CK2016121902000114.html

東京都大田区認可保育所多摩川保育園」の庭にあるサクラが今春も美しく咲いた。「お花の下でなにか食べたい!」。子どもたちの声を受けて、保育士の田中里佳さん(31)は数日後、給食のチキンライスをおにぎりにしてもらい、サクラの下でみんなで食べた。「もっとサクラの花びらとか葉っぱで遊びたい」。さらに声が上がった。
ある女の子が「サクラのお茶を飲んでみたい」と提案。サクラの塩漬けを作ることに。花は散ってしまったが、クラスをサクラで飾り付けて、塩漬けを入れたお茶を飲む会を開くことが決まった。子どもたちは衣装も作り、田中さんが和菓子の紹介をして、お茶に合わせた和菓子も用意することになった。
お茶会の日、田中さんは「みんなで時間をかけて一生懸命やったからこの会ができたね」と語りかけた。引っ込みがちだった子が調べたことをみんなの前で発表して自信を付けたり、クラスに落ち着きが出てきたりするうれしい変化があった。「プロセスを大切にするので地味で見えにくいが、自ら探求していく力を身に付けるという子どもの育ちに、手を貸すことができたのではないか」
同園は、三、四、五歳児を一つのグループにする異年齢保育を実施。保育室はいくつかのコーナーに仕切られ、子どもたちがその日遊びたいところで遊びたいおもちゃを使って遊ぶ。全員に一斉に同じことをさせることはない。「自分で選び、夢中になれる環境が、子どもたちの主体性を育む」と主任保育士の佐伯絵美さん(37)。その時々の子どもたちの興味、関心を注視しながら、保育室に置くおもちゃや本、素材などを変えていくのが重要な仕事だ。
その子が今どんなことに興味を持って楽しんでいるのか、この遊びを通してどんな力が育っているのか…。子どもを観察する目を深めることに役立っているのが、子どものつぶやきや会話、表情、行動などを写真と文章で記録する「ドキュメンテーション」といわれる書類だ。「これがなければ、けがなく一日が終わればいい、というだけになってしまうかも。大事な瞬間を記録していくことで、子どもをみる視点が深まっていく」と佐伯さんは言う。
保育士や幼稚園教諭としての勤務経験もある日本女子体育大の天野珠路(たまじ)准教授(保育学)は、「子どもの根源的な欲求を大事にして、遊びに昇華したり表現活動につなげていく環境をつくるのが保育。学校に入ったらできない乳幼児期だからこその教育が大切だ」と指摘。「それを担う保育士や幼稚園教諭など『子どもの専門職』の重要性を社会がもっと認識すべきだ」と話す。