言わねばならないこと(83)共謀罪、相談も罪に 刑法学者・内田博文さん - 東京新聞(2016年12月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2016121902000165.html
http://megalodon.jp/2016-1219-0925-42/www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2016121902000165.html

政府は来年の通常国会に「テロ等組織犯罪準備罪」を新設する法案の提出を検討している。内心や思想を取り締まる点で、過去、三度廃案となった「共謀罪」と実質的に中身は一緒だ。
実際の行為や結果が生じなければ罪には問わないのが近代刑法の基本原則。だが、共謀罪ができると、会話や相談が犯罪になってしまう。特定の犯罪集団だけでなく、普通の人々の権利運動も処罰されかねない。沖縄の基地反対運動を例に挙げれば、建設阻止行動をしようと話し合った段階で拘束されるかもしれない。
戦争に反対する人たちの取り締まりに利用された治安維持法も、同じ性格の法律だった。帝国議会で法案が審議されたとき「近代刑法の基本原則が認められていない」と批判されたが、法制定後は歯止めが利かなくなった。
取り締まり対象は「非合法左翼だけ」から「合法左翼」に広がり、最終的に「サークル活動」「勉強会」なども対象になった。当局が法律を拡大解釈し、裁判所が容認した結果、処罰対象が雪だるま式に肥大化していった。
共謀罪も運用次第では、「みんなで市役所に行って窓口で陳情しよう」という話し合いが、組織的威力業務妨害共謀罪に問われる可能性もある。
治安維持法のできた時代、不景気や将来への不安から国民が強い権力を求め、戦争で突破しようとした。遠い昔の話で自分には関係ないと考える人も多いだろう。だが、近年も人間不信や将来に希望が見いだせないことから、強い権力への期待が強まっている。テロ対策の名の下に共謀罪が創設され、取り締まりの矛先が普通の人々に向かった場合、防ぐのは極めて困難だ。

<うちだ・ひろふみ> 1946年生まれ。専門は刑事法学(人権)、近代刑法史。神戸学院大教授。九州大名誉教授。著書に「治安維持法の教訓 権利運動の制限と憲法改正」など。