(筆洗)常識が覆され、新たな不思議が見つかる。 - 東京新聞(2016年12月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016121002000139.html
http://megalodon.jp/2016-1211-1042-19/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016121002000139.html

科学とは「不思議を殺すものでなくて、不思議を生み出すものである」という名言を残したのは、夏目漱石の弟子で物理学者の寺田寅彦だ。
たとえば、かつては「すべてのものは原子からできている」と教わったのに、科学の進展で、私たちが知る原子でつくられている物質は宇宙のわずか4%にすぎず、残りは謎の物質だと分かった。
常識が覆され、新たな不思議が見つかる。そのおかげで私たちはより深く、違った角度から考えられるようになる。それが科学の醍醐味(だいごみ)だろうが、どうもわが国の政府は「不思議を生み出す」科学に冷淡なようだ。
きょう、ノーベル賞の授賞式典に臨む大隅良典さんは「謎が解かれた時、新たな謎が生まれるのが科学」と説き、「科学が役に立つというのが、数年後に企業化できることと、同義語になっている」と憂いている。研究費が削られ、拙速に成果が求められる現状では、科学立国の礎(いしずえ)が危ういとの警鐘だ。
偉大な政治家にして科学者でもあったベンジャミン・フランクリンには、こんな逸話が伝わる。自然科学の新たな成果に接した人が、「これは何の役に立つのだ?」と聞くと、彼は聞き返した。「では、生まれたばかりの赤ん坊は、何の役に立つというのです?」
大人には計り知れぬ可能性を秘めた「赤ん坊」に「何の役に立つか?」を問う。そういう社会では、未来は育めまい。