(憲法のトリセツ)現憲法は押し付けか 「贈りもの」と見た人々 - 日本経済新聞(2016年11月23日)

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO09775310R21C16A1000000/

憲法は米国の押し付けなのか、の3回目です。過去2回はGHQ(連合国軍総司令部)主導ではあったが、日本人の声もかなり反映されていたことを紹介しました。今回は「むしろ押し付けられてよかった」との受け止めもあったという話です。
■22歳で憲法原案に加わったユダヤ女性
ベアテの贈りもの」という映画をご存じですか。1993〜94年に細川護熙羽田孜の両首相のもとで文相を務めた赤松良子氏らが発起人になり、2004年に制作されたドキュメンタリーです。一般向けの販売やレンタルはしていませんが、ときどき女性の地位向上を訴える市民団体などの主催で上映会が催されることがあります。
主人公はウィーン生まれのベアテ・シロタ・ゴードンというユダヤ人の女性です。世界的に著名なピアニストだった父レオ・シロタが東京音楽学校(現在の東京芸術大学)で教えるために29年に来日したとき5歳でした。39年に米国のミルズ・カレッジに入学するまで、赤坂のお屋敷街で暮らし、日本語が上手になりました。
第2次世界大戦が終わると、日本に残っていた両親を探すため、GHQの職員に応募して45年12月に日本に戻ってきました。そしてGHQの民政局が46年2月に憲法の原案を作成した際、最年少の22歳で参加しました。
所属したのは人権委員会です。残る2人――ピーター・K・ロウスト陸軍中佐とハリー・エマーソン・ワイルズ博士――が男性だったので、ベアテさんは主に男女同権に関する規定を任されました。のべで7つの条文を書いて全体を統括していたチャールズ・ケーディス陸軍大佐に提出しました。
「家庭は人類社会の基礎であり、その伝統は善きにつけ、あしきにつけ、国全体に浸透する。それ故、婚姻と家庭とは法の保護を受ける」
「婚姻と家庭において、両性が法律的にも社会的にも平等であることは当然である。このような考えに基礎を置き、親の強制ではなく、相互の合意に基づき、男性の支配ではなく、両性の協力に基づくべきことをここに定める」
「これらの原理に反する法律は廃止され、それに代わって、配偶者の選択、財産の相続、住居の選択、離婚ならびに婚姻および家庭に関するその他の事項を個人の尊厳と両性の本質的平等の見地に立って定める法律が制定されるべきである」
かなり長く、くどくど繰り返しもある。新しく制定する憲法に書く必要のない「明治憲法に基づく法律の廃止」が出てくる。ベアテさんが法律の専門家ではないことがうかがえます。米国で女性参政権が認められたのが、そのわずか四半世紀前ですから、女性の地位をどう書くのかの前例があまりなく、苦労したことでしょう。
他方、戦前の戸主制度のもとで親に物として扱われる女性たちの姿を身近に見て、いつか助けてあげたいと念願していた思いも読み取れます。
ケーディスはこれらを書き縮め、GHQ草案に取り込みます。これが最終的に現憲法の24条になりました。

(憲法のトリセツ)現憲法は押し付けか 「象徴」を提唱した日本人 - 日本経済新聞(2016年11月9日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20161110#p12

(憲法のトリセツ)現憲法は米国の押し付けか 始まりは、ある会談 - 日本経済新聞(2016年10月26日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20161101#p3