(筆洗)- 東京新聞(2016年12月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016120702000135.html
http://megalodon.jp/2016-1207-0932-20/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016120702000135.html

ハワイ語に、「’AKIHI」という言葉があるそうだ。「アキヒ」と発音する。意味は「だれかに道を教えてもらい、歩き始めたとたん、教わったばかりの方向を忘れること」
日本語で説明すれば、これだけの文字数が必要となるが、ハワイ語では、一言「アキヒ」である。「翻訳できない世界のことば」(創元社)にあった。
せっかく、教えてもらったのに分からなくなる。どなたにも経験があるだろう。教えられ、理解したつもりでも、いざとなると忘れてしまい、道に迷う。
道順を取り戻す旅としていただきたい。安倍首相が日米開戦の舞台となったハワイ州ホノルル市の真珠湾を訪問することを発表した。オバマ大統領の広島訪問への返礼との位置付けもあろうが、現職首相のハワイ訪問は初めて。安倍首相の大きな決断といえる。
日本は過去において道に迷い戦争へと進んだ。戦後、戦争は愚かであり、民主主義という場所への道を聞いたのではあるが、戦後七十一年のうちに次第にその「道順」がどこか怪しくなってはいないか。
「戦争の惨禍を繰り返してはならないという未来への決意を示したい」。首相のその言葉に異論はないが、「アキヒ」とならないために必要なのは何度も尋ね、確かめることしかあるまい。戦争につながるわずかな方向も許さず、正しき道を思い出す。開戦地、真珠湾はふさわしい地である。