欧州の混迷 政治不信の直視を - 朝日新聞(2016年12月6日)

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イタリアで上院の権限を縮小する憲法改正案が、国民投票で否決された。推進役のレンツィ首相が辞意を表明した。
オーストリアの大統領選では環境政党緑の党」の元党首が右翼政党の候補を破って当選したが、左右の二大政党はともに第1回投票で大敗し、今回の決選投票には臨めなかった。
トランプ氏が大統領選を制した米国に続き、既成政治への不信が広がった結果だとすれば、憂慮すべき事態だ。欧州各国は政治の機能を再点検する機会ととらえるべきだろう。
イタリアでは、豊かな北部と貧しい南部という地域格差に加え、既得権層の壁に阻まれて若者が職に就けない世代間格差が指摘されていた。若年失業率は4割に近い。
イタリア議会両院は、ほぼ同じ権限をもち、法案審議の停滞が繰り返されてきた。この状況を変え、改革を迅速化するのが憲法改正案の狙いとされた。
だが、レンツィ氏が「否決ならば首相を辞任する」と宣言したことで、争点は首相の唱える改革ではなく、政権を信認するか否かになってしまった。
「反エリート」を掲げて大衆人気を博す政党に格好の攻撃材料を与えたのは戦術ミスだったかもしれないが、問題の根本はそれでは片付けられない。
就職難や生活苦にあえぐ人々が不満を募らせる今、政権や中央政府の権限強化ばかりをうたった制度改革が果たして妥当だったのか。民意に正面から向き合う姿勢が政権の側に乏しかったと考えざるをえない。
一方、オーストリアでは、ナチスの流れをくむ右翼政党「自由党」の候補が決選投票まで進んだ末に敗れた。
同国大統領の権限は小さいとはいえ、欧州連合の加盟国で初めて右翼の元首が誕生すれば、衝撃は計り知れなかった。
この国の失業率は高くはないが、近年は高い人件費から製造業が外国に流出し、成長が鈍っていた。そこに難民の流入が起き、「私たちよりも難民や移民が優遇されている」との反発が労働者層に広がっていた。
難民の流入阻止など過激な主張から「極右」と呼ばれる政党が、深まる政治不信の受け皿になりかねない。その危うさを欧州各国は直視すべきだろう。
グローバル化と格差の拡大への人々の不満の声を丁寧にくみ取る。同時に、内向き政策に陥らない対外協調も維持する。そんな政治をどう模索するか。
大衆扇動の広がりを食い止めるためにも、各国が民主政治を問い直す必要があろう。