(余録)ドイツでのアンケートで… - 毎日新聞(2016年12月6日)

http://mainichi.jp/articles/20161206/ddm/001/070/128000c
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ドイツでのアンケートで最も偉大なドイツ人のトップに「モーツァルト」がなった時、在独オーストリア大使館から彼は自国のザルツブルク生まれだとのクレームがついた。ちなみにザルツブルクの近くにはブラウナウという町もある。
ドイツ人は言った。「オーストリア人はモーツァルトには声を大にするが、ブラウナウ生まれのヒトラーについては沈黙する」(片野(かたの)優(まさる)ほか著「こんなにちがう ヨーロッパ各国気質」)。そのオーストリア自由党は発足当初に旧ナチスとの関係が取りざたされ、近年もナチを礼賛する党首がいた極右政党だ。
難民の排斥で支持を広げるその自由党の候補が大統領選決選投票できわどい票差で左派候補に敗れた。英国のEU離脱、米国のトランプ氏勝利と続いた国民的審判の大番狂わせを受け、もしや欧州大陸でも「EU初の極右の国家元首誕生か」と注目された選挙だった。
一方、同じ日に行われたイタリアの改憲をめぐる国民投票構造改革を進めるレンツィ首相への事実上の信任投票だった。こちらは大差で改憲を否決された首相がすぐに辞任を表明したが、背景に既成政治への不満を追い風に支持を広げる新興政治勢力があるという。
この五つ星運動なる新勢力は国民の政治不信の受け皿とはなったが、一貫した政策構想があるわけでもなさそうだ。いくつもの複雑な問題を二者択一へと流し込む国民投票や大統領選などが、大衆迎合にたけた扇動政治家の活躍のしどころなのは覚えていた方がいい。
ポピュリズム大衆迎合主義)とは最近よく耳にするいやな言葉だが、この先しばらくはつき合わざるをえまい。