パナマ文書 名前記載の日本人 700人余に - NHK(2016年11月27日)

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161127/k10010785751000.html
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パナマ文書」をNHKが独自に分析した結果、名前が記載されている日本人が、「ICIJ=国際調査報道ジャーナリスト連合」がこれまで公表してきた人数の3倍にあたる700人余りにのぼることがわかりました。
パナマ文書」は中米パナマの法律事務所から流出した租税回避地タックスヘイブンペーパーカンパニーを持つ顧客などのデータで、南ドイツ新聞が入手し、ICIJが各国の報道機関と連携して分析を進めています。
ICIJはコンピューターによる自動的な抽出で、パナマ文書に名前が記載されている日本人をおよそ230人と公表していましたが、NHKがことし6月から5か月かけてデータを手作業で調べ直した結果、その3倍を超える716人の名前を確認しました。
このうち職業や肩書などが特定できた人では、企業の経営者や役員、投資家、医師、弁護士などが目立ち、中にはペーパーカンパニーの口座に税務申告していない巨額の資産を保有していた人もいました。
また、海外で日本の大使を務めた元外交官や、私立大学の理事長、著名な音楽プロデューサーや漫画家の名前があったほか、元暴力団員や脱税や詐欺の罪で過去に摘発された人物も複数いました。一方、国会議員の名前はパナマ文書では確認できませんでした。
元外交官や音楽プロデューサーの名前も
パナマ文書には、元駐レバノン大使で評論家の天木直人さんの名前がありました。天木さんは外務省を退職したあとの2005年、イギリス領バージン諸島に登記されている会社の取締役になっていました。
天木さんは「自分の名前がパナマ文書に出ているとは知らなかった。外務省を辞め今後の生活に不安を感じていたときに、『中国のビル・ゲイツ』と呼ばれているという中国人の男性から中国で携帯電話の動画配信サービスをするビジネスの誘いを受けた。資本金を2人で折半し1400万円程度を出した。しばらく頑張ってみたがうまくいかなくなってその中国人とは連絡がつかなくなった。タックスヘイブンを利用して税逃れなどの不正をするつもりなどは全くなかった」と話しています。
このほか、著名人では音楽プロデューサーの小室哲哉さんの名前がありました。パナマ文書では小室さんは2001年から1年半ほどバージン諸島に登記されている会社の取締役となっていました。複数の日本人や中国人も取締役として名を連ね、香港に本社があるエンターテインメント会社が株主になっています。小室さんは所属事務所を通じて「会社に名前が登記されていたことは認識しているが、詳細はわからない」と話しています。
少女漫画「キャンディ・キャンディ」を描いたことで知られる漫画家、いがらしゆみこさんの名前もありました。パナマ文書ではいがらしさんは1998年にバージン諸島に設立された会社の取締役とされています。いがらしさんは設立手続きの書類にあった署名が自分の筆跡とは異なるとしたうえで、「全く身に覚えがない。びっくり、なんですかって感じ。当時は漫画を描いていただけで、会社の作り方など全くわからない。鳥肌が立つほど気味が悪い」と話して、自分の意思でつくった会社ではないとしています。
大学関係者も7人
大学関係者も目立ち、国立大学の教授や職員など少なくとも7人の名前がありました。
このうち横浜市内にある私立大学の理事長は、1997年にバハマに設立された会社の取締役となっていました。理事長はNHKの取材を受けるまで、この会社の存在を知らなかったとしたうえで、「同じ取締役の中に面識がある海外の金融機関の担当者の名前がある。金融機関に問い合わせたところ、私が以前、金融商品を購入した際にその商品に関連して会社を設立したのではないかと説明されたが、私はそのことを知らなかった。この会社の存在によって国税当局に疑われたり、変な風評を立てられたりしたら困るので、詳細を調べたい」と話しています。
脱税容疑で告発された人の名前も
パナマ文書には、過去に脱税の疑いで告発された人物の名前も複数ありました。
このうち6年前にインターネット広告で得た所得を隠し、法人税6000万円を脱税した疑いで国税局から告発された男性は、その翌年、イギリス領バージン諸島に会社を設立していました。男性は「金融商品を扱う事業を始めるために作った会社できちんと税務申告した。会社は2年半前に売却した」と話しています。
また6年前、2億5000万円の所得を隠したとして国税局から脱税の疑いで告発された金券ショップ運営会社の元社長は、告発される前の年に香港の仲介業者を通してバージン諸島に会社を作っていました。
パナマ文書とは
パナマ文書」は中米パナマにある法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した内部情報で、顧客が租税回避地タックスヘイブンに設立したペーパーカンパニーなどおよそ21万社に関する膨大なデータが含まれていて、「史上最大のリーク」と言われています。
「ジョン・ドゥー(名無しの権兵衛)」と名乗る匿名の人物から南ドイツ新聞に提供され、アメリカに本部がある「ICIJ=国際調査報道ジャーナリスト連合」が各国の報道機関と連携して分析を進めています。
パナマ文書をめぐる報道では、世界の権力者や富裕層が秘匿性の高いタックスヘイブンを利用した資産隠しや税逃れを行っていた実態が暴かれました。
ロシアのプーチン大統領の古くからの知人による巨額の資産運用や、イギリスのキャメロン前首相がタックスヘイブン投資ファンドの株式を保有していたことが明らかにされたほか、アイスランドの首相やスペインの産業相が辞任に追い込まれ、各国の政治にも影響が出ています。
資産を海外に逃がす意図も
パナマ文書の中には日本人が秘匿性の高いタックスヘイブンに資産を移し、借金の返済を逃れようと画策したとみられる記録も見つかりました。
官報などによりますと、多額の借金を抱えていた北陸地方の自営業の男性は4年前、債権者への返済額を大幅に減らしてもらうための法的手続きを地元の裁判所に申し立て、4か月後に認められました。
ところがパナマ文書からは、男性がこの手続きのさなかに、インド洋のセーシェルに、匿名のペーパーカンパニーと銀行口座を作ろうとしたことを示す会社の設立申込書などが見つかりました。男性は会社の株主や取締役を自分の名義を隠すことのできる「ノミニー」という仕組みを使うことを希望していました。パナマ文書には資産証明書なども含まれていて、借金を棒引きしてもらう法的手続きを取りながら、一方で資産を海外の匿名口座に隠そうと画策していたことが疑われます。
この男性には関係者を通じて取材を申し入れましたが、これまでのところ応じていません。
また北海道に住む男性医師が3年前、パナマ文書の流出元となった中米パナマの法律事務所にタックスヘイブンでの会社設立について問い合わせたメールが残されていました。
このメールには「最近、日本ではアメリカと同じように医師が患者から訴訟を起こされることがあるので、医師はみずからの資産の保護を真剣に考えるようになっています」とか、「日本は低金利で資産を増やすことができない。香港の銀行に口座を持ちたい」などとタックスヘイブンに会社を設立し、その名義の口座を持つことを検討する理由が具体的に述べられていました。
中国や香港の取引先に名義貸しも
パナマ文書で、タックスヘイブンに設立されたペーパーカンパニーの取締役とされていた中には、中国や香港の取引先に名義を貸したと明かした人が複数いました。
このうち衣類の輸入卸会社の役員だった岐阜県の40代の男性は、2008年ごろ取り引きがあった中国・大連の貿易会社の社長から「利益をプールする架空の会社を海外に作りたいので、日本人の名前がほしい」と名義貸しを頼まれ、サモアに会社を作るための書類にサインし、本人だと証明するパスポートの写しを渡したということです。
男性は何らかの不正に使うのだろうと考え、自分が巻き込まれることを心配しましたが、同じように名義貸しをした人がまわりにもいたことや、社長と懇意だったこともあり協力したということです。
また、大阪府に住むサングラスメーカーの40代の男性社員は2011年ごろに仕事で知り合った香港のバイヤーから「インターネットを使って日本で小物を売る商売を始めたい。日本人の名前のほうが信用されるので会社を作ってほしい」と、ペーパーカンパニーの設立を持ちかけられたということです。
男性社員は見返りを期待して協力することにし、自分を取締役とする会社をイギリス領バージン諸島に作りましたが、結局、香港のバイヤーが商売を始めなかったため会社は閉鎖したということです。