(筆洗)映画『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』 - 東京新聞(2016年11月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016112602000120.html
http://megalodon.jp/2016-1126-1036-45/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016112602000120.html

ロンドン郊外の美しい町に住むグレタ・ウィントンさんが、夫ニコラスさんの重大な秘密に気づいたのは、結婚して四十年もたってからだった。屋根裏で夫の過去の行いを物語る驚くべき書類を見つけたのだ。
その秘密が公にされると、世界中から「あなたこそ、私の父だ」と名乗りを上げる人が現れ、その数は二百人を超えた。「あなたは、私の祖父だ」という人まで現れて、夫妻を驚かせた。
一九三八年、ナチスの脅威が迫る中、チェコスロバキアを訪れたニコラスさんは、ユダヤ人難民らの姿に衝撃を受けた。各国とも難民受け入れに消極的だったが、彼は「せめて子どもたちだけでも」と里親を探して、六百六十九人の子どもたちを英国に脱出させた。
しかし戦後、ニコラスさんは、救い切れなかった無数の命を思い、自らの英雄的な行いについて、口をつぐんだ。妻にさえ打ち明けなかった。その理由を問われれば、英国紳士らしくユーモアを交え答えた。「夫が妻に言わないことなど、たくさんあるよ」
昨年百六歳で逝った彼と、彼を父と慕う子らの姿を描いた映画『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』がきょう、東京などで公開される。
映画は、こんな字幕で始まる。<世の中には、観客として見るだけでなく、自身が主人公となる物語もあります>。「戦争と平和」とは、そういう物語なのだろう。

関連サイト)
英国の「シンドラー」と呼ばれた男性が106歳で死去、669人の子供をナチスから救う - IRORIO_JP(2015年7月2日)
http://irorio.jp/daikohkai/20150702/242371/