被災いじめ 再発防止をめざすなら - 朝日新聞(2016年11月24日)

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事実をはっきり示さないまま教育現場に「いじめ問題への取り組みの徹底」を指示して、果たして実が上がるのだろうか。
原発事故後、福島県から横浜市に避難した小学生がいじめを受けた問題で、市教育委員会が市立の小中高に通知を出した。
いじめ防止対策推進法にもとづき、市教委の諮問をうけて今回の問題の調査にあたった第三者委員会の提案を踏まえた。
理解できないのは市教委による第三者委の報告書の扱いだ。全26ページのうち公表されたのは答申部分の7ページと目次だけ。しかもあちこちに黒塗りがある。
実際にどんな問題行動があったのか。学校や市教委はどう判断し、いかなる対応をとってきたのか。答申の前提となった事実経過はほとんどわからない。
いじめが原発事故の避難に伴うものだったこと、被害者は名前に「菌」をつけて呼ばれていたこと、不登校になったこと、「賠償金があるだろう」と言われ、ゲームセンターなどで遊ぶ金を負担していたこと――。
今回の事件を特徴づけるこうした事実は、被害者の代理人弁護士の会見などで明らかになったもので、公表された報告書からはうかがい知れない。
深刻ないじめが起き、学校や市教委もそれなりに状況をつかんでいたにもかかわらず、なぜ「重大事態」と受けとめられなかったのか。関係者とのやり取りや学校側の迷いなど、具体的な経過がわかってこそ、現場の教職員は教訓をくみ取れる。
一部公表にとどめる理由を、市教育長は「子どもの今後の成長に十分配慮していく必要がある」と説明する。いじめられた側、いじめた側ともまだ中学生で心配りはもちろん必要だ。
それにしても、今回の対応は「配慮」の域を超えている。学校や市教委の失態を隠したい意図があるのではないか、と受け取られてもやむを得まい。
いじめ防止法の施行後、これまでに10以上の自治体で第三者委が報告書をまとめた。多くは「校内の情報共有不足」「教員の問題の抱え込み」を指摘するが、なぜそうなってしまったかという深部まで踏み込まないものがほとんどで、課題は多い。
それでも、プライバシーに配慮しながら「概要版」をつくって事実を知らせようとしている例もある。今からでも横浜市は参考にすべきだ。
報告書の内容を各校が共有し、間違えた原因を掘り下げ、みずからに引き寄せて考え、見直すべき点を見直す。このサイクルが動かなければ、再発防止にはつながらない。