強制送還か就労許可か、米国の若い移民を待つ運命 - WSJJapan(2016年11月22日)

http://jp.wsj.com/articles/SB10316534201594473698304582449790087726060

【ロサンゼルス】グアテマラ出身のマリア・シルン・ツォクさん(21)は、4歳の時に親と一緒に米国に不法入国した。先に行われた米大統領選の翌朝、会社に向かう車の中で聖歌を流し、「トランプ氏、どうかDACAを取り上げないで」と祈った。
シルンさんは、バラク・オバマ大統領が2012年に大統領令によって導入した「DACA」の恩恵を受けている。DACAは、不法入国時に16歳未満だった移民に更新可能な2年間の就労許可を与えて強制送還から守る制度。全米で約75万人が対象となっている。
ロサンゼルス市内の小児病院で患者の保険手続きなどを手伝う仕事に就いているシルンさんは「DACAがなければ、私は大好きな仕事を失うだろう。国外送還されるかもしれない」と述べた。
DACA反対派を次期司法長官に
ドナルド・トランプ次期大統領は選挙戦を通じ、オバマ政権下で発動された大統領令を「直ちに終了」すると言明してきた。これにはDACAも含まれる。トランプ氏は、DACA反対派のジェフ・セッションズ上院議員(共和、アラバマ州)を司法長官に指名する考えを明らかにしている。
トランプ氏の代理人はメールと電話でのコメント要請に回答しなかった。
オバマ氏は銃規制など他の問題についても大統領令を発動しているが、大統領令については議会を迂回(うかい)しており違憲だとの批判もある。
移民削減を目指す団体、米国移民改革連盟を率いるダン・スタイン氏は「議会の明確な承認がないまま米国の雇用と公益を滞在資格のない人々に提供する能力は、いかなる大統領にも与えられるべきでない」と述べた。
トランプ氏の勝利後、一部の民主党議員はDACAを守るようオバマ大統領に呼びかけている。オバマ氏は先週、「トランプ次期大統領と次期政権に熟考を促す」意向だと述べた。
申請を更新すべきか否か
10代後半から30代初めのDACA対象者の多くは、先行きの見えない不安定な状況に置かれている。500ドル近くかけてDACA申請を更新するか失効するにまかせるか、決められずに困っているとの声も多い。
更新した後にトランプ氏がプログラムを撤廃すれば、手数料を無駄にしたことになる。再申請をせず、トランプ氏がたとえ一時的にでもプログラムの存続を認めれば、雇用や滞在資格が危うくなる。
DACAの適用を受けるには、申請者は米国到着時に16歳未満だったことを証明する必要があり、犯罪歴がなく一定の教育を受けていなくてはならない。
一方、移民支援団体は、DACAのデータベースが不法移民の送還に使われかねないとして、新規の申請は思いとどまるよう勧めている。DACA適用者は市民権を申請できない。
若い不法滞在者を支援する非営利団体のエデュケーションズ・フォー・フェア・コンシダレーション(E4FC)のキャシー・ジン氏は「初めてDACAに申請した場合、次期政権が成立する前に処理される公算は小さく、無用に自らを国土安全保障省 (DHS)にさらすことになりかねない」と述べた。
雇用をめぐり反対する声も
11歳の時に米国に入国した韓国出身のエリ・オーさん(29)は、DACAの資格を得る前はウエーターをしていた。「DACAができて、看護職に就くことができた」と話す。現在は、スタンフォード大学医療センターの救命救急チームに所属している。
「DACAのおかげでやっと安全を得られたと思った」が、DACAが終わる可能性が浮上して、「裏切られた」と感じているという。
多くの雇用主は、DACA適用者を雇っているという意識さえないかもしれない。
DACAについては、不法入国者が大きな労働力となれば、雇用をめぐって不公平な競争が起きると反対する声もある。オー氏が就業する分野のように、人手不足の可能性が懸念されている分野についてもそれは同じだ。
カリフォルニア州の元看護師は「看護師が不足していようと、DACAは終了する必要があると感じている」と述べた。トランプ氏に投票し、不法移民に反対する活動家を自認するこの女性は「米国人にそれらの仕事をやってもらおう」と述べた。
一方、DACAを通じて仕事に就いている人たちは、自分たちの目標に向かって働き続けると話している。オー氏は、トランプ氏の勝利後に「危機モード」から「計画モード」に転じたと話した。DACA終了に備えて「残業を多くこなし、貯金している」といい、出国を余儀なくされた場合、やはり看護師の需要があるカナダ行きを検討するという。
冒頭のシルン氏は、DACAの更新時期を知らせる政府の書簡を9日に受け取った。すぐに新しい労働許可証用の写真を撮影し、申請手数料の資金を貯金から下ろした。「一瞬たりともちゅうちょしない。心配だが、信念を持つ必要がある。税金は全て支払っているし、自分の仕事を愛している」