(筆洗)日本には戦前の過ちを踏まえた「戒め」がある - 東京新聞(2016年11月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016111602000138.html
http://megalodon.jp/2016-1116-0918-23/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016111602000138.html

映画「七人の侍」(黒沢明監督、一九五四年)の後半の場面で、三船敏郎さん演じる「菊千代」は銃を構える敵に対し、ひるむことなく、立ちはだかる。シナリオから引く。<勘兵衛(叫ぶ)「菊千代っ!何をする!危ない!」><ダーン!−銃声。菊千代、一歩ふらっと出る。また、一歩>…
菊千代は野武士と相打ちの果て絶命する。映画ならばこれでよい。しかし菊千代の親なら「お逃げなさい」「別の方法を考えなさい」と止めるだろう。
別の方法はないのか。政府が閣議決定した南スーダンPKOの新任務の駆け付け警護である。陸上自衛隊は現地で国連職員らが襲われた場合、武器を持って赴き救出に当たる。助かる人がいる。その半面で日本の海外での武器使用の範囲は拡大する。
慎重論に対して、「仲間が襲われているのに、見捨てるのか」という批判を聞く。なるほど、その言葉は突き刺さる。それは卑怯(ひきょう)なことではないかと。
これだけは、言える。それでも日本には戦前の過ちを踏まえた「戒め」がある。海外で武力行使をしない。新任務はその戒めに本当に触れぬのか。
武器を取るのは難しくない。難しいのは戒めを守りつつ安全で効果的な国際的な平和維持活動を日本がどう築いていくかである。武器を取らぬことで批判もあろう。が、その茨(いばら)の道を選ぶのは卑怯ではない。菊千代とは違う勇気の形もある。