(余録)小学校の教室を訪ねると澄んだ歌声が響いていた… - 毎日新聞(2016年10月31日)

http://mainichi.jp/articles/20161031/ddm/001/070/179000c
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小学校の教室を訪ねると澄んだ歌声が響いていた。女性シンガー・ソングライターの大西玉貴(おおにしたまき)さんが歌う「とべない小鳥」。<ひとりぼっちでたたずむ僕を消しゴムで消せたらいいのに>。いじめられるつらさを伝える曲に子供たちが聴き入る。
NPO法人「再チャレンジ東京」がいじめをテーマに東京都内の小中学校で続けている特別授業だ。大西さんは小学生の時にひどいいじめに遭った経験を語る。仲間はずれにされ、誰からも話しかけられない。クラスで飼っていたモンシロチョウのサナギが死ぬと、夕方のホームルームで自分のせいにされた。そんなことが続いた。世の中から消えてしまいたいと思い詰めた。
いじめの中心にいたのは一人の女の子だった。大西さんはずっと恨んでいた。大学生になったころ、母親に聞かされた。あの子は当時、家で虐待されていたという。そのつらさを私にぶつけていたのか。彼女の気持ちを初めて知った。
2児の母親になり、考え始めた。どうすればいじめを解決できるのか。歌を通し、その手がかりを子供たちと一緒に探そうとしているように見える。
昨年度に学校が把握したいじめが過去最多の22万件に上った。自殺も後を絶たない。青森県黒石市の写真コンテストで市長賞に選ばれた女子中学生の写真が目に焼き付いている。苦しかっただろうに、輝くような笑顔だ。
大西さんが訪れる教室にも、笑顔を見せつつ心の中で「助けて」と叫んでいる子がいるかもしれない。「『とべない小鳥』の歌詞を思い出してのりきりたい」という感想も届く。歌はこう終わる。<きっと、この籠(かご)から飛び立てる>