(筆洗)狭い道幅の割に交通量があり、危ない道といわれていたと聞く。すべての子に安全でやがては良き思い出となる道を用意しなければならぬ。 - 東京新聞(2016年10月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016103002000127.html
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作家の安岡章太郎さんが小学校へと通った道には大きな犬がいた。「おとなしいので、通りがかりの人たちがよく頭を撫(な)でてやったり、食いものをやっていた」と思い出を書いている。そのときはこの犬が有名な忠犬ハチ公だとは知らなかったそうだ。
作家の小川洋子さんの通学路には一軒の本屋さんがあった。本好きだった、小学生の小川さんは「外から、棚に並んだ本の姿をうらやましく眺めるだけだった」そうで自分の家が本屋さんだったら、と想像しながら通っていたという。
どなたにも懐かしい「通学路」があるだろう。たまにはその道を歩いてみることをお勧めする。大人の足はその道を狭く、短く感じさせ、同時にとうに忘れたはずの友の笑い声まで聞こえてくるはずだ。通学路には大切な思い出が刻まれている。
学校へ、そして未来へとつながらねばならぬ、その子の「通学路」は突然、途切れてしまった。横浜市市道。前の車に追突し、弾みで横転した軽トラックが集団登校の列に突っ込み、小学一年生の田代優くんが亡くなった。
安全なはずの通学路での事故がやり切れない。来年の運動会のかけっこで一等になりたいと意気込んでいたそうだ。なのに来年が来ない。
狭い道幅の割に交通量があり、危ない道といわれていたと聞く。すべての子に安全でやがては良き思い出となる道を用意しなければならぬ。