いじめの防止 背景をもっと知りたい - 東京新聞(2016年10月27日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016102702000137.html
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いじめ防止対策推進法の施行から三年余り。いじめられ、自殺に追い込まれる深刻なケースが後を絶たない。なぜ食い止められないのか。背景事情を共有して、もっと手厚い予防策を打てないか。
二〇一一年に大津市の中学二年生が自殺した事件を契機に、議員立法で制定された法律だ。施行三年を迎え、国のいじめ防止対策協議会は運用上の課題を探り、多岐に及ぶ改善策を打ち出した。
一義的には、やはり教育現場の危機意識の薄さと対処能力のもろさが問題だろう。
学校はいじめを防ぐための基本方針を立て、対策組織を置くよう義務づけられた。だが、実態として機能しているとは言い難い。
教員が一人で問題を抱え込んだり、学校全体での取り組みがおろそかになったりして重大な結果を招いたケースも目立つという。組織的に情報を共有すれば、複眼的に事態を捉えられ、多様な介入の仕方が可能となるに違いない。
改善策では、教員の日常業務の中で「自殺予防、いじめへの対応を最優先の事項に位置付けるよう促す」と踏み込んだ。遅きに失した感は否めないが、うなずける。
言うまでもなく、子どもの健やかな成長にとって学校環境の安全安心は大前提だ。教員の事務負担を軽くし、子どもと丁寧に向き合える時間を広げてほしい。いじめ対策専任教員の配置も望みたい。

気がかりな点もある。
法律の立て付けでは、いじめの早期発見、早期対応に主眼が置かれている。未然防止の手だてがいまひとつ物足りなく見える。
もちろん、情操や道徳心、対人関係を紡ぐ力を培う教育や、親や地域住民への啓発は大切だ。しかし、ほとんどの子どもは、いじめは悪いことと知っている。にもかかわらず、いじめは絶えない。
どんな子どもも、いじめる側にも、いじめられる側にも回りうる。そうした認識が、かえって個々の問題の動機や原因の究明を鈍らせている面はないだろうか。
いじめた経験のある小中高生の各約七割が、いじめていた頃に自分も悩んだり、つらかったりしたことがあると答えている調査報告がある。さまざまな加害の背景事情に寄り添えなければ、いじめの根絶は難しいだろう。
とりわけ自殺や不登校といった重大事態に追い込まれたケースでは、加害の実相を社会全体で共有したい。学校はもとより、家庭や周囲が感度を高め、対処する力を磨く手掛かりになるはずだ。