いじめ「重大事態」具体例明示を 改善策、防止協が国に提言 - 東京新聞(2016年10月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/education/edu_national/CK2016102502000292.html
http://megalodon.jp/2016-1025-2250-37/www.tokyo-np.co.jp/article/education/edu_national/CK2016102502000292.html

国のいじめ防止対策協議会は二十四日、いじめ防止対策推進法に基づく施策の改善策をまとめた。子どもの命に関わるような「重大事態」に該当するいじめを明確にするために、具体例を示すよう国に求めた。重大事態が起きた場合の調査方法の指針を示すことも求めた。
二〇一三年九月に施行された同法は、重大事態を(1)生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがある(2)相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある−と定義。重大事態が生じたときに学校や教育委員会は事実関係を調査するよう義務付けている。
協議会は、(1)の定義が不明確なため、本来なら重大事態として扱うべきいじめ事案が、重大事態として扱われていない現状があると指摘。該当事案を明確化することで、きちんと調査が行われるよう促した。
調査方法に関しては統一的な指針がないため、保護者の意向が全く反映されなかったり、結果が被害者に提供されなかったりするケースがあるという。このため、調査方法や結果の開示などについて国が指針を示す必要があるとした。
同法は一一年十月に大津市の中学二年男子がいじめを苦に自殺した事件をきっかけに議員立法で制定。施行から三年をめどに必要な見直しをすることとなっている。文部科学省は提言を受け、年度内をめどに必要な指針の策定などをする。
◆「子どもの命守れない」
「いじめを報告できないのは、定義の解釈といった問題ではなく、正しく対応できるスキルを持っていないから」。いじめ防止に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)理事の小森美登里さん(59)は、有識者会議の提言にもどかしさを募らせる。
小森さんの一人娘の香澄さんは高校一年生だった一九九八年、いじめを苦に自殺した。小森さんは二〇〇三年、夫の新一郎さん(60)や他の遺族とともにNPOを設立。全国の学校や教員研修などで千二百回以上講演してきた。
各地の学校を回っていて「いじめがあったときの事実確認の仕方や子どもへの言葉の掛け方などに、間違いがいっぱいある」というのが小森さんの実感だ。
いじめている子といじめられている子を呼んで話をさせ、表面上の解決を図ったことで、さらにいじめが深刻化した例があった。やっとの思いで相談に来た子に教員が「あなたにも悪いところがあるんじゃない」と放言したケースも。
いじめを矮小(わいしょう)化しようとする傾向は学校現場にはびこる。小森さんはその理由を「安全配慮義務ができていないことへのペナルティーを恐れる意識が、いじめを隠してしまうことにつながる」と分析。「正しい知識や対応策を伝えることが必要」と指摘する。
小森さん夫妻はいじめ防止の活動を通して「いじめ問題は加害者の心の問題」とも確信する。「虐待や自分が脅されていじめに加担している子など、さまざまな背景に寄り添わなければ、いじめの解決はない」
講演を聞いた教員からは「今までの対応は間違っていた」「発想を変えて学校で共有したい」など認識を改める言葉を聞いてきた。
「現場の先生たちの対応スキルがないことを放置しているのは国の責任。教員研修のあり方を具体的に議論しない限り、子どもの命を守ることはできない」
小森さんは、各都道府県で校長や生徒指導、人権担当の教員らを対象にした研修を担う人材育成を国が主導するよう訴えている。 (小林由比)