保育所への助成 現場の人件費が優先だ - 毎日新聞(2016年10月22日)

http://mainichi.jp/articles/20161022/ddm/005/070/076000c
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なぜ保育士の賃金は低いのか。公的な補助金は保育士の賃金に回っているのだろうか。そんな疑問への答えを示唆する保育所の経営実態が明らかになった。
毎日新聞が東京都内の約1500保育所の財務状況の情報公開を請求して調べたところ、社会福祉法人の経営する保育所の運営費全体に占める人件費の割合は平均69・2%だが、株式会社の保育所は平均49・2%だった。国は70%を人件費に充てることを想定して補助金を出しているが、株式会社では半分以上が人件費以外に回されているのだ。
ほかの仕事に比べて保育士の賃金は著しく低く、保育現場からは補助金の増額を求める切実な声が上がっている。政府の「1億総活躍プラン」では2017年度に保育士の賃金を月6000円アップし、経験を積んだ保育士は最大で4万円引き上げることになっている。
しかし、補助金を増額しても保育士の待遇改善に充てられないのであれば話が違う。
以前は、国が決めた割合の通りに補助金を使うよう定められていたが、保育士の配置基準などの要件を満たせばある程度自由に使えるようになった。00年から株式会社の参入も認められ、規制緩和が進む中で賃金を低く抑える保育所が増えたと見られる。
そうした中で賃金格差は広がり、同じ勤続年数でも最大2倍近い差があることを示す調査結果もある。
株式会社側は「長期的な経営の安定のために資産を蓄えておきたい」「人件費率を上げると保育所の新設の資金に回せない」と言う。非課税の社会福祉法人と実情が違うのは確かだ。株主や融資銀行の意向に影響される面もあるだろう。
ただ、国や自治体からの補助金の多くが会社の内部留保に回されるのは本来の目的に反しているのではないか。内部留保保育所の新設に回るという保証もない。待機児童解消もおぼつかないだろう。
一方、社会福祉法人にも問題はある。経営者の親族が役員を占め、多額の報酬を得ている保育所がある。人件費率は高くても、内訳を明らかにしないと現場の保育士の賃上げに回されているかどうかわからない。
こうした実態は東京だけではないはずだ。都は保育士の処遇改善のため独自の助成金制度を始め、その条件として各保育所に財務状況を提出させた。その結果、各保育所の人件費率が明らかになったのである。
国や自治体は各保育所補助金の詳しい使途を公開させ、人件費率の低い保育所には厳しく対処すべきだ。勤務実態や利用者の満足度も調査し、公開してはどうだろう。