(余録)非行や罪から再起する人を支援する… - 毎日新聞(2016年10月10日)

http://mainichi.jp/articles/20161010/ddm/001/070/180000c
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非行や罪から再起する人を支援する日本更生保護協会に「更生保護」という冊子がある。彼らを励ます文章が寄せられていた。一人の不良少年が大人になり、五輪に夢をかける話だ。
母子家庭で育った少年は学校でいじめられ、けんかを繰り返した。中学で好きになった女の子には交際を断られ、ようやく付き合えることになったが、相手の両親に猛反対される。「見返さなきゃいけない。20歳までに1000万円ためよう」と決心した。
定時制高校に通いながら寝る間も惜しんで大工の見習いや解体業のアルバイトをした。目標額をためて22歳の時に彼女の両親に結婚を許してもらえた。努力すればできる。自信がついた。
妻の両親には「30歳までにビルくらい建てる」と約束した。26歳でアルミの加工・販売の会社を起こした。会社に信用がないから誰も取引してくれない。買えない工具を近所の工場のおじさんが貸してくれた。仕事まで回してもらった。「人に支えられて生きているんだ」。ありがたかった。必死で働き、会社を大きくした。
彼が工場を構えたのは東京都大田区。次は町工場の技術を結集し、世界へ打って出る夢を描いた。挫折を経験しながら仲間と開発したのが国産そりの「下町ボブスレー」。ジャマイカ代表が乗って2018年平昌(ピョンチャン)冬季五輪を目指す。その責任者がかつての不良少年、細貝淳一(ほそがいじゅんいち)さん(50)だ。完成した新型機が先週報道陣に公開された。
誰もが人生の夢をかなえられるわけではない。途中でくじけてしまうことのほうが多い。けれど決して負けない方法があると細貝さんは言う。「続けていれば負けにはならない」