学力テスト 「応用」の壁を越えるには - 毎日新聞(2016年10月2日)

http://mainichi.jp/articles/20161002/ddm/005/070/003000c
http://archive.is/2016.10.02-022534/http://mainichi.jp/articles/20161002/ddm/005/070/003000c

4月に小学6年生と中学3年生を対象に行われた全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を文部科学省が公表した。
正答率(%)で見る成績は全体的に「底上げ」され、上位と下位の差は縮まった。学校の指導改善が一定の効果を上げたと同省は見る。
しかし、応用問題を苦手とする傾向は依然続いている。
テストは国語、算数・数学で実施され、それぞれに基礎的な知識学力を問う「A問題」と、応用の力を見る「B問題」が出題される。
今回の全国平均正答率を見ると、例えば、小学校の国語ではAが73%、Bが58%というように小、中いずれでも、BがAをはっきりと下回った。2007年のテスト開始以来毎回指摘されてきた課題だ。
今、文科省は20年度に小学校から実施される学習指導要領の全面改定作業を進めている。子供が主体的に課題を探求し、他者とも協力して解決する。こんな力を育成する「アクティブ・ラーニング」を基本理念にすえるが、平たくいえば、知識を多様に活用し、発展させる力だろう。
そうした中、学力テストの応用問題が苦手な傾向を解析し改善を図ることは有用だ。成果を上げた学校を見ると、例えば、課題をクラスで話し合い、思考過程を重視して理解を深める「探究型」へ授業改善するなど、多様な取り組みがある。学校教育現場で広く共有し、活用したい。
一方で懸念されるのは、テストによる順位競争意識の過熱だ。
学力の実情を知り、学習改善に生かすのがこのテスト本来の目的だが、順位の高低にこだわり過ぎる傾向も一部に指摘されている。
今春には、当時の馳浩文科相に現場教員から訴えがあった。教育委員会の内々の指示で、2月からテスト対策で授業時間を使って過去に出た問題(過去問)を子供たちに解かせているという。馳文科相は「本末転倒」と強く批判し、同省は全国に異例の通知を出して注意した。
過去問を教材に活用するのは誤りではないし、成果を励みにするのも自然だ。しかし、教委も学校も地域も「順位」至上になり、その高低が「評価」を左右するようなことになれば本末転倒で、テスト自体が無意味になりかねない。
テストのやり方も見直す時期ではないだろうか。学力や授業の改善ポイントをつかむのに、毎年50億〜60億円かける全員参加の方式である必要はなく、抽出調査で足りる。
応用学力の改善のため、これまでのテストを通じて得た成果例などを学校教育の現場に積極的に生かすべく、教員養成、配置、財政的措置などに力を向けたい。