全国学力テスト実施10年 都道府県で差はみられず - (2016年9月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/education/edu_national/CK2016093002000123.html
http://archive.is/2016.09.30-080525/http://www.tokyo-np.co.jp/article/education/edu_national/CK2016093002000123.html

文部科学省は二十九日、四月に実施した全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。学テは小学六年と中学三年生を対象に二〇〇七年度に始まり、今回で十年目。都道府県別の平均正答数で上位と下位の自治体の差が縮まっており、文科省は「都道府県単位では、学力面でほとんど差がみられない」としている。 
全員参加方式で行われ、国語と算数・数学で知識を問うA問題と、知識を活用する力を問うB問題が出題された。平均正答率は例年同様A問題で高く、B問題が低迷する傾向。A問題では最も高い小学校算数で77・8%など60〜70%台だったのに対し、B問題では40〜60%台だった。
全国の平均正答数が100となるように標準化した得点で、上位と下位の各三自治体の平均を比べると、小学国語Bで昨年度4・1あった差が2・9に縮まるなど、中学数学B以外のすべての問題で、昨年度より差が縮まった。
文科省は学力の底上げが図られたとする理由について「上位の自治体から指導法を取り入れるなど、各自治体の取り組みが進んだ結果」と分析している。
例年通り秋田、富山、石川、福井の各県が小中の各教科とも上位を占めた。
調査が十年目を迎えたことを受け、テストとは別に児童生徒に生活習慣を尋ねる質問について、〇七年度と回答状況を比較。家庭学習に取り組む割合は小学校で15ポイント、中学校で11・7ポイント増加。家の手伝いをする割合も小学校で4・4ポイント、中学で3・9ポイント増えた。
本年度は熊本地震の影響で、熊本県と宮崎、大分の一部の小中学校では四月の実施を見送った。
結果公表は当初八月下旬の予定だったが、委託業者による集計ミスにより約一カ月延期された。
◆強まる「競争」の色合い
十年目を迎えた全国学力テストの結果が二十九日、公表された。教育の成果を測り指導に生かす流れができたという評価の一方で、見えにくい成果を分かりやすい数字で示して公表することの弊害も指摘されてきた。子どもたちの学びに還元するため、より効果的なあり方を求める声もある。 (小林由比)
◆曲折
学年全員を対象とする学テは〇七年度、四十三年ぶりに始まった。一九五六年度に始まった全国規模のテストは学校間競争の過熱を招き廃止された経緯がある。
再開の背景には、九〇年代の「ゆとり教育」が学力を低下させたという危機感の高まりがあった。文科省は、かつての学テ批判への警戒感から「競争目的でない」と強調し、当初は学校別の成績公表を禁じた。
しかし「競争」の色合いが徐々に強まっている。市町村や学校別の成績を公表する一部自治体の動きに押されるように一四年度から各自治体による公表を解禁。大阪府で入試に使われる事態となり、昨年、文科省は「(授業方法の改善などの)目的を外れた使い方」として、それを禁じる対応に出ざるを得なかった。
◆学力観変わらず
学力テストの特徴は基礎力を見る「知識(A問題)」と、資料を読み解く能力などを問う「活用(B問題)」の二本立てとなっていることだ。B問題は、経済協力開発機構OECD)が世界の十五歳を対象に実施する学習到達度調査(PISA)を意識した設問となっている。
社会に出たときの問題解決能力に力点を置いたこの調査で二〇〇三年、日本は読解力が八位から十四位に転落。それが「学テ復活」にもつながった。
しかしこの十年、結果だけを見ればB問題を不得手とする傾向は変わっていない。
広田照幸・日本大教授(教育社会学)は「知識を詰め込むのではなく、考えさせる、発表させる教え方が浸透し、学校はずいぶん変わった」とみている。
一方、東京都足立区教委の森太一学力定着推進課長は、「応用力などの新しい学力観の大切さは理解しているが、まずは基礎知識で全国平均に追いつこうと取り組むことが最優先だった」と明かす。
教科を横断し、社会の課題を解決する力を育む「持続可能な開発のための教育」を全国でいち早く取り入れて成果を上げている江東区立八名川小学校の手島利夫校長は、「自治体や教育委員会には、学テで良い成績を出さなくてはとの意識が依然強い」と、学力観の転換が進まない背景を指摘。「目の前の『学力向上』に踊らされず、子どもたちが夢中になって学べる授業をつくり、行動や意識の変化をみていくのが学校のすべきことだ」と話す。
◆経済力の差
学テがもたらしたものもある。就学援助を受ける児童生徒の割合と正答率の関係性や、保護者への調査により、家庭の経済力が子どもの学力差を生んでいることを浮き彫りにした。
委託研究を行った耳塚寛明お茶の水女子大教授は、「家庭状況が厳しい子が多い地域でも、力を付けさせている学校はどんな実践をしているのかなどの分析が必要だ」と強調。また、こうした子どもたちの学力を支えるため、「貧困対策や親の雇用の安定など根本的な政策も必要だ」と話す。