望まない妊娠 生まれる子を守りたい - 毎日新聞(2016年9月26日)

http://mainichi.jp/articles/20160926/ddm/005/070/008000c
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みんなに祝福されて生まれてくる子供ばかりではない。
父親がわからずに妊娠する少女、貧困や暴力がからんだ不慮の妊娠をする女性がいる。最も助けが必要なのに、周囲の人が気づかず、市区町村に妊娠届も出さないため、何も支援がないことが多い。
妊娠した女性の健康はもちろんだが、生まれてくる子も心配だ。
厚生労働省によると、無理心中以外の虐待で亡くなった18歳未満の子供は2003〜14年度で計626人。このうち半数近くが0歳児で、実の母親が加害者である場合がほとんどだ。妊娠期からフォローしていれば虐待の恐れが高いことがわかるケースが多いと見られている。
このため、厚労省は産科のある医療機関助産所などに児童福祉司を配置し、「望まない妊娠」をした女性の支援を始める。貧困や家庭内暴力の被害にあった女性を支援するNPOや母子生活支援施設にも児童福祉司を常駐させる。来年度にモデル事業として計10自治体に委託する予定という。
また、妊娠期から子育て期にわたるまで切れ目のない支援を提供する「子育て世代包括支援センター」は現在296市区町村に設置されている。来年度はさらに150市町村に設置し、産前産後のサポートや産後ケア事業を実施するという。
寝る場所や食べ物がなく、インターネットのサイトで援助してくれる男性を求める「神待ち少女」、性風俗しか居場所を見つけられない「最貧困女子」など若い女性を取り巻く状況は深刻だ。「望まない妊娠」のリスクは高まっている。同省の取り組みはもの足りないが、これまで手が届かなかったところへ公的支援を広げる意義は小さくない。

課題は、児童相談所など関係機関との連携である。
産んだ女性が育てられなければ、児童相談所を通して里親や養子縁組などの受け皿を見つけることが必要だ。ところが、虐待対応の急増で疲弊し、里親にまで十分に手が回らない児童相談所も多い。専門的な知識や実務のスキルが必要なのに、相変わらず専門外の部署から職員を異動させて回している自治体もある。
児童福祉法の改正で、社会的な養護が必要な子供は施設よりも「家庭的な環境」で育てることが原則となった。乳幼児期は特に手厚い子育てが必要だが、里親の成り手や養子縁組を望む人はまだ少ない。
母子ばかりでなく、父親である男性のことも含めて「望まない妊娠」の背景にある社会問題にも目を向けなければならないだろう。
ただ、どんな事情があっても、生まれてくる子供は守りたい。