首相所信表明 改憲は喫緊の課題か - 東京新聞(2016年9月27日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016092702000143.html
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安倍晋三首相が所信表明演説憲法改正原案の提示に向けた議論が深まることに期待感を示した。しかし、そもそも改正は喫緊の課題なのか。その前に、政権が取り組むべき課題は山積している。
臨時国会がきのう召集された。会期は十一月三十日までの六十六日間。衆参両院ではきょうから三日間、首相の所信表明演説に対する各党代表質問が行われる。
国会の状況がこれまでと違うのは、七月の参院選の結果、憲法改正に「前向き」な、いわゆる「改憲勢力」が衆参両院で、憲法改正の発議に必要な三分の二以上の議席に達したことである。
首相は、自民党が結党以来の党是としてきた憲法改正を実現する好機ととらえているに違いない。
首相は演説を「憲法はどうあるべきか。日本がこれから、どういう国を目指すのか。それを決めるのは政府ではない。国民だ。そして、その案を国民に提示するのは私たち国会議員の責任だ。与野党の立場を超え、憲法審査会での議論を深めていこう」と結んだ。
首相は二〇一二年の第二次安倍内閣発足後、施政方針演説や所信表明演説を、今回を含めて八回行っている。改憲論議を深める必要性を訴えることはこれまでもあったが、改正原案の提示にまで踏み込んだのは今回が初めてだ。
日本国憲法は九六条に改正手続きを明記しており、一般論としては、改正案を発議する国会議員が議論することまで否定はしない。
改正しなければ、国民の平穏な暮らしが著しく脅かされる恐れがあり、改正を求める声が国民から澎湃(ほうはい)と湧き上がっているのなら、国会で憲法改正を議論し、堂々と国民に問い掛ければいい。
しかし、そうした政治状況でなく改正を煽(あお)るとしたら、権力の乱用との批判は免れまい。
首相はこの国会を「アベノミクス加速国会」と位置付けるが、首相が主導する成長重視の経済政策は成果が出ているとは言えず、経済格差も拡大している。このまま続けていいのか、検証が必要だ。
また、成立強行から一年たった安全保障関連法を、安倍政権は既成事実化しようとしているが、違憲性は依然、払拭(ふっしょく)されていない。自衛隊に初めて「駆け付け警護」任務を与えようとしている南スーダン国連平和維持活動(PKO)も、現地では戦闘が続き、危険性が指摘される。
国会で早急に議論すべき課題は山積している。憲法改正に政治力を注ぎ込んでいる場合ではない。