児童虐待 役所の枠超え対応を - 朝日新聞(2016年9月21日)

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全国の児童相談所(児相)が2015年度に対応した児童虐待の件数が、前年度比約16%増の10万3260件となり、初めて10万件を超えた。虐待による18歳未満の子どもの死亡は、14年度で71人にのぼった。
いずれも厚生労働省のまとめで明らかになった。
虐待件数は25年連続で過去最多だ。背景には虐待への社会の意識が高まったことや、専用電話からの相談が増えたこともあるようだ。深刻な事案がこれまで埋もれていたといえる。救済の態勢を整え、被害を防ぐ手立てを急ぐ必要がある。
虐待事例では、目の前で家族に暴力をふるう面前DVなど、直接暴力を受けたときと同じくらい心が傷ついてしまう心理的虐待が半数近くを占め、身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)、性的虐待が続く。
まずは一時保護や家庭への支援がしっかりできる態勢が必要だ。最前線に立つのは児相の児童福祉司だ。主に心理学や教育学を専攻し、児童福祉施設などで1年以上の経験を積んだ職員が、自治体から任用される。その人数は15年間で2・2倍になったが、虐待件数の増加(5・8倍)に追いついていない。
厚労省は、19年度末までに550人増やして約3500人にするよう児相の配置基準を見直す方針だ。早急に実態に見合った要員確保に努めてほしい。
同時に児相まかせでは子どもを守る社会は実現できない。
5月の児童福祉法の改正で、来年4月から児相が通告を受けた事案を市町村に引き継げるようになった。児相を比較的深刻なケースに専念させ、市町村には身近な相談窓口としての役割を果たしてもらう狙いだ。
ただ市町村は財政難で職員を減らす傾向にある。首長が先頭に立ち、人員の重点配分や、専門知識をもつ人材育成にリーダーシップを発揮すべきだ。

司法への期待も大きい。
時に親の意に反して子を引き離すのが児相の仕事だ。しかし児相が親から憎まれ、その後の支援が難しくなるケースが多い。例えば裁判所が一時保護の許可を児相に出すしくみができないか。第三者である裁判所の許可があれば、親との無用な対立を避けられよう。
厚労省も一時保護などへの司法の関与を考える有識者会議をつくり、議論を始めている。どんな手続きや要件を設け、どの程度の証拠を必要とするか。裁判所の態勢づくりもふくめ、課題は多いが、虐待の深刻さを思えば、役所の枠を超えて社会一丸となって対処すべき時だ。