<安保関連法成立1年 みんしゅしゅぎって> (下)一人一人が考え行動を:神奈川 - 東京新聞(2016年9月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201609/CK2016091802000132.html
http://megalodon.jp/2016-0919-1105-02/www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201609/CK2016091802000132.html

「学校生活のルールを自分たちで話し合って決めていた高校時代を思い出しますね」。明治学院大二年の殿垣くるみさん(21)=横浜市保土ケ谷区=は、かこさとしさんの絵本「こどものとうひょう おとなのせんきょ」を読み、自らの経験と重ね合わせた。殿垣さんは、八月十五日に解散したSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)の元メンバーだ。
全寮制のキリスト教愛真高(島根県)出身。シールズの中核をなした奥田愛基(あき)さんと同じ高校だ。年に一度、全校生徒と教員計七十人が集まる会議で「漫画を持ち込んでも良いか」「洗濯機を導入すべきか」など、寮生活のルールを決めていた。最終的には多数決だったが、意見が割れた時は粘り強く話し合っていた。議論と投票には丸二日をかける。「こういう過程が民主主義なんだって、何となく実感していた」
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国会では「私の知る民主主義」とは逆のことが起きていた。昨年五月、安保関連法案が閣議決定され「多数派の横暴」を見た。「決め方がおかしい。私たちの声を国会に届けたい」とシールズに加わった。
「勉強していない若者は黙れ」「女性はおとなしくしていろ」−。心無い批判に屈せず、国会前で「民主主義って何だ」「勝手に決めんな」とラップ調の訴えを上げ続けた。
「少数派の意見が切り捨てられないよう、多数派が耳を傾けるのが民主主義だ」。しかし、殿垣さんの思いは届かず、安保関連法は強行採決された。その国会の姿に、かこさんの絵本で描かれた子どもの世界との違いを強く感じている。
絵本では「ひろば」の使い方を決める「いいん」を複数選び、いいんが「みんなの かんがえを よく きいて」結論を提示する。子どもたちの間では、この方法で落着する。「選ばれた『いいん』は、みんなの意見を聞く前提で選ばれている」
だが安保法を巡る国会では「憲法違反と指摘する多くの憲法学者有権者の意見を聞かなかった」。意見調整の機会を軽視する多数派の姿に「議員が選ばれた後、彼らをどう監視するかを考えなきゃ」。
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シールズは、活動を紹介してきたインターネットサイト「シールズ・ポスト」で解散に際し、こうメッセージを残した。「終わったというなら、また始めましょう。始めるのは私であり、あなたです」
殿垣さんも活動を始めている。「国会前とかで叫ぶことも大事。だけど、今は足元を固めたい。自分の考えをしっかりさせないと、活動しても空虚になってしまう」。社会問題を考える大学サークルで、学生や教員、近隣住民が参加する勉強会を開き、憲法や選挙などの意見交換を続ける。
「シールズ・ポスト」を引き継ぎ、「ポスト」というサイトとして、政治や選挙についての意見を発信することも考えている。シールズの元メンバーたちで記事を投稿し合い「遠い存在と思える政治」が、生活の一部になるような内容にしたいという。
「民主主義は形のないシステムのことではなく、私たち自身。一人一人が考えて判断し、行動することが民主主義を強化していく」。その目標のため、「私」の歩みを続けていく。
  (志村彰太)

<とのがき・くるみ> 1995(平成7)年、兵庫県生まれ。同県立高校に進学したが「教員に管理されず、自分たちで話し合って物事を決めたい」と1年時で退学し、キリスト教愛真高校に入り直した。「少数派の犠牲の上にある私たちの生活」を学ぶため、2015年に明治学院大国際学部に入学。同年5月にシールズに参加し、国会前デモの準備や「シールズ・ポスト」の更新作業を担当した。