(記者有論)膨らむ原発事故コスト 負担するべきは私たちか - 朝日新聞(2016年9月8日)

http://digital.asahi.com/articles/DA3S12548629.html
http://megalodon.jp/2016-0908-1026-10/digital.asahi.com/articles/DA3S12548629.html

5年前の福島第一原発事故のコスト負担論議が秋以降、活発になりそうだ。東京電力ホールディングスが政府に追加支援を求める方針を表明したからだ。事故コストを償うための請求書はすでに私たちに回ってきている。強い関心を持ちたい。
これまで、福島第一原発の事故コストは増加の一途をたどった。2011年10月時点の試算では約5・7兆円(損害賠償など4・5兆円、廃炉1・2兆円)だった。それが14年7月時点で約11兆円(損害賠償5・4兆円、除染など3・6兆円、廃炉2・0兆円)と倍増した。
そうしたコストは、電気料金や税金でまかなう仕組みが事故後につくられてきた。北海道や九州の電気利用者も毎月、東電が起こした事故のツケを払っていることを、どれだけの人が知っているだろう。
そうすることによって、東電は潰されず、東電自体の負担は軽くされた。それでも東電も事故を起こした事業者として、収益から「特別負担金」と呼ぶお金を毎年納める。15年度は700億円だった。
今回、廃炉費用などがさらに膨らみそうだということで、再びの追加支援要請となった。それがどれほどか、まだはっきりしないが、プラス数兆円になる可能性もある。
この負担をどうまかなうか。経産省幹部は取材に、新たな資金支援の枠組みの必要性を認めつつ、東電は時間がかかってもその資金を自ら返さねばならないと語った。すると東電独自の年間の負担額は、先の700億円と合わせ1千億円超になるだろうか。それが数十年続く。
今回の増額分も含めると、福島の事故コストはもはや総額20兆円と言っても的外れでないかもしれない。この重さに最大手の東電でさえ、国に何度もお金を無心し、電気利用者らに負担を求める。自らも長年の返済に耐えないといけない。
事故を起こしたのが他社だったらどうだろう。北海道電力四国電力の売上高は、東電の10分の1前後だ。次の事故が、電力会社の経営規模をみながら小さく収まってくれることなどあるはずもない。
あまり知られていないが、福島の事故をふまえて、原子力委員会の専門部会が、巨大な原発事故が再び起きた場合、どう賠償資金をまかなうか、を議論してきた。
電力業界は、原発は国策なのだから「国も支払いに応じて」と求めた。これに消費者側の委員は「(普段は原発で利益を得て)事故が起こった時にだけ、国に負担を、とは納得できない」と反発した。この溝を埋めるのは難しい。
ただ、福島の事故で分かったのは原発は他の電源と違って巨大な事故を起こせば、膨大なコストがかかることだ。この負担論議抜きに、今後の電源の姿は考えられないはずだ。 (小森敦司 経済部)