(余録)ターミナル駅に近い公園には… - 毎日新聞(2016年9月5日)

 
http://mainichi.jp/articles/20160905/ddm/001/070/111000c
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ターミナル駅に近い公園には若者が居場所を求めてたむろする。東京の池袋西口公園もその一つ。ここを舞台にした作家、石田衣良(いしだいら)さんの小説がある。20年近く前に最初の単行本が出版されたシリーズ「池袋ウエストゲートパーク」だ。
事件に立ち向かう若者が主人公。爽快な青春小説だが街の危険な香りも漂う。シリーズには対立する二つの不良グループが登場する。それぞれ同じ色の服に身を包み、帰属意識を確かめる。「カラーギャング」と呼ばれ、かつて池袋周辺にも実際にいたが、今では見かけない。
埼玉県東松山市の河川敷で16歳の井上翼(いのうえつばさ)さんが殺害された。遊び仲間だった17歳から14歳の少年5人が逮捕された。同じ赤い服を着て「パズル」というカラーギャングを名乗った。
井上さんはメンバーと知り合って間もなく「使い走り」をさせられていたようだ。逃れようとして集団で暴行されたという。彼らは暴力によって井上さんを引き留めようとしたのだろうか。
「パズル」を以前から知る地元の男性は言う。「話してみると一人一人はおとなしい。かつての不良とは違う。今どきの少年だ」。ギャングと呼ぶにはあまりに幼い。逮捕された17歳と16歳の少年はどちらも高校を中退して無職だった。井上さんも高校を中退している。「パズル」は彼らがたどりついた唯一の居場所だったのかもしれない。
事件現場の河川敷では同年代の若者たちが花束を供え、悔しそうに目を閉じて手を合わせる。同じような光景を見た川崎の中1殺害事件から1年半。少年たちの凶行はなぜこうも続くのか。大人は現実の前に立ち尽くすだけでいいのか。