差別、暴力に屈しない 相模原殺傷事件 障害者らバンド追悼ライブ - 東京新聞(2016年9月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201609/CK2016090502000122.html
http://megalodon.jp/2016-0905-0905-31/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201609/CK2016090502000122.html

知的障害のある人たちが中心のロックバンド「サルサガムテープ」が4日、相模原の障害者施設殺傷事件の犠牲者を悼む緊急ライブ「ぼくたちのこたえ〜ロックンロールはとめられない」を東京都渋谷区のライブハウスで開いた。「障害がある人もない人も、一緒に楽しさを分かち合えたら」と思いを込め、満員の70人が集まった会場を明るい音楽で沸かせた。 (神谷円香)
バンド名の由来となった、バケツに粘着テープを何重にも貼った「ガムテープ太鼓」を勢いよくたたく。車いすに乗ったまま、動く左足でペダルを踏み打楽器を打ち鳴らす。メンバー二十人が全身で表現する音楽は力強く、エネルギーに満ちあふれている。
脳性まひで車いすを使うボーカルYouGoこと加藤優吾さん(23)は、「障害のある人にどう接したらよいか分からない人、何かしなきゃと思うあまり付き合うのに疲れてしまう人もいる。ただ皆で楽しく、ロックンロールしていきたい」と会場に語り掛け、声をからして歌った。
バンドは一九九四年、NHKの五代目「うたのおにいさん」だったミュージシャンかしわ哲さん(66)が立ち上げた。スウェーデンでの海外ライブやフジロックフェスティバルへの出演、故・忌野清志郎さんとの共演などで評判を呼び、全国でライブを開いている。「音楽を仕事に」と五年前、神奈川県厚木市NPO法人を設立、生活介護施設での活動として日々練習をしている。
ダウン症の棚橋直紀さん(21)は、ドラムの一つ「タム」を舞台の中央でたたき、両手を突き上げてリズムを取り、観客の手拍子を誘った。小学五年の時から練習に通ったがなかなか輪に加われなかった。それでも何かを無理強いされることなく、温かく見守ってもらう中、高校一年の時、自然に仲間になれた。母親の洋実(ひろみ)さん(52)は、「バンドを始めて自信を持ち、意欲も出て、周りをいたわるようになった」と話す。
相模原市の事件で、「障害者はいなくなればいい」という容疑者の一方的な暴論が流布したのに、かしわさんは危機感を覚えた。暴力や報復、戦争を否定し、「笑って、黙って、許してやるさ」と歌う「ぼくたちのこたえ」は、活動初期に作った楽曲。事件に対する自分たちの答えとして、この日、最後に披露した。
「事件で二十二年間やってきた活動の根幹を否定され、無力感、絶望感にさいなまれた。でも、暴力に屈せず、皆で生きていく世界が当たり前と言う。それが僕たちの答えだ」