自衛隊新任務 国会での議論は十分か - 東京新聞(2016年8月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016082602000136.html
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自衛隊の新たな任務に関する訓練が始まり、安全保障関連法は運用段階に入る。平和国家という「国のかたち」を変えてしまいかねない海外での活動だ。国会での議論は、とても十分とは言えない。
自衛隊の新たな任務は、昨年九月に成立し、今年三月に施行された安全保障関連法に基づく。稲田朋美防衛相は二十四日、新たな任務のほぼ全てについて、訓練に着手することを表明した。
想定される訓練内容は、米艦への攻撃に反撃する「米艦防護」、国連平和維持活動(PKO)関係者らを襲った武装集団などへの反撃に向かう「駆け付け警護」、他国軍と協力しての「宿営地の共同防衛」などだ。
このうち米艦防護は、歴代政権が憲法上認められないとしてきた集団的自衛権の行使に当たり、民進、共産両党などは憲法違反だとして関連法の廃止を求めてきた。
違憲の疑いを残したまま訓練を始め、法律の運用を既成事実化することが妥当とは言えまい。
PKOも同様だ。十一月の交代で南スーダンに派遣される陸上自衛隊部隊から、駆け付け警護など新たな任務が与えられる予定で、派遣準備訓練も始まった。
日本のPKOは国際的な人的貢献であり、その意義は認める。現在活動中の南スーダンのほか、カンボジアなどこれまで十三の活動に参加して高い評価を得てきた。
一発の銃弾を撃つこともなく、戦闘による犠牲者を一人も出していない。紛争当事者間の停戦合意など「参加五原則」に基づいて、注意深く派遣してきたためだ。
しかし、駆け付け警護や宿営地共同防衛などの任務が加われば、より危険な任務に当たる自衛隊員のリスクは確実に高まる。
しかも南スーダンでは七月、政府軍と反政府勢力との間で戦闘が再燃し、数百人が死亡したとされる。新たな任務を付与する前に、参加五原則を満たしているのか否かをまず検討すべきでないのか。
安保関連法の国会審議を振り返ると、集団的自衛権の行使の是非に焦点が当たり、PKOをめぐる議論は深まらなかったのが実態だ。政府が十一本もの法案を二つに束ねて提出したことも、大きな要因だろう。
戦後日本は憲法九条の下で専守防衛に徹し、国際的信用を得てきた。海外での武力の行使や武器使用など新たな任務が加わっても、その「国のかたち」を変えることはないと言い切れるのか。あらためて議論を尽くすべきである。