虐待10万件超 幼い心を傷つけるな - 東京新聞(2016年8月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016082602000135.html
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全国の児童相談所が二〇一五年度に対応した児童虐待の件数は初めて十万件を突破し、過去最多を更新した。痛ましい虐待死は後をたたない。子どもを守るため、あらゆる手だてを講じてほしい。
「産まなきゃよかった」「俺の子じゃない」「帰ってくるな」「出てけ」「殺すぞ」−。
赤や青色のインクで書かれた言葉の数々に息苦しくなった。親など「大人に言われて嫌だった言葉」を書き込んだボード。東京都内で開催されていた企画「私たちは『買われた』展」の作品の一つだ。「援助交際」や「JKビジネス」に足を踏み入れた女子中高生らが自らの体験や思いを伝える企画だが、これに至るまでの背景には家族による虐待や貧困などがある。リストカットを繰り返すなど、心の傷に苦しむ女性も多いという。
児童虐待件数は二十五年連続で増えている。特に言葉や態度で子どもを傷つける「心理的虐待」が急増し、全体の五割弱を占める。
子どもの前で配偶者らに暴力を振るう「面前DV」は心理的虐待にあたると定義され、警察からの通報が増えた。通報のため全国共通の短縮ダイヤル「189(イチハヤク)」の運用が昨夏、始まった。「隠れていた虐待」が表に出てきたようだが、それだけだろうか。
核家族化や地域力の低下が進んだことで、子育て家庭が孤立していることが指摘される。経済的困窮が虐待につながるケースもある。親への支援策や、地域や学校などで大人が子どもに目を向けることが重要だ。
虐待をする親は自身が虐待を受けて育ったケースも少なくない。暴力が止められない親を対象とするカウンセリングプログラムは米国、英国などでは普及しているが、日本では少ない。予防対策はしっかりとすすめたい。
同時に、子どもを救う体制の強化も求められる。この十五年間で虐待件数は六倍近く増えている。児童相談所(児相)で対応の中心となる児童福祉司の数は二倍にとどまる。児相は「パンク状態」といわれる。
改正児童福祉法が今春、成立した。児相は一時保護など専門性が高い措置に専念し、家庭への支援などは市区町村に委ねる役割分担を進めることになった。児相の負担軽減と職員の増員は、一刻も早く実現すべきだ。
虐待で亡くなった子どもは一三年度までの十年間で五百人を超える。事態は深刻であり、迅速な対応は待ったなしだ。