(余録)今年はシーボルトが没して150年になるそうだ… - 毎日新聞(2016年8月25日)

http://mainichi.jp/articles/20160825/ddm/001/070/163000c
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今年はシーボルトが没して150年になるそうだ。歴史の教科書に出てくる「シーボルト事件」を起こしたドイツ人医師である。江戸幕府禁制の日本地図を国外に持ち出そうとして国外追放されたのだから、なにやら怪しげな人物という印象を持つ人もいるだろう。
ところが彼は、長崎の私塾で西洋医学や自然科学を教えたほか、日本の自然や生活文化を欧州に紹介して日欧交流に大きな足跡を残した民俗学者でもあった。千葉県佐倉市国立歴史民俗博物館で開催中の「よみがえれ!シーボルトの日本博物館」展が、そんな功績を紹介している。
シーボルトは帰国後、日本などを紹介する民俗学博物館の設立を提案した。途上国の事情をつぶさに伝え、植民地経営や貿易に役立てる狙いもあったはずだ。それでも彼は異国の文化を知れば、その国に対し「尊敬と理解をもって振る舞える」と主張した。日本で多くの門人らと交流を深めた経験を基に信頼関係を築くことの大切さを強調したのだろう。
経済大国になった日本の途上国への対応はどうか。第6回アフリカ開発会議(TICAD6)が27、28日にケニアの首都ナイロビで開かれる。日本政府の主導で1993年に始まった国際会議である。
安倍晋三首相が出席し、人材育成や保健分野での支援を表明するそうだ。多くの民間企業も同行し、各国との経済連携強化を目指す。
もっとも、国連安全保障理事会常任理事国入りに向けアフリカ諸国の支持を得たいという下心や、存在感を増す中国への対抗心は隠せない。外交の要諦は信頼関係の構築だろう。相手国への「尊敬と理解」を忘れずにいたい。