天皇陛下「生前退位意向」に見える憲法へのお心(金子秀敏さん) - サンデー毎日2016年8月7日号(2016年7月30日)

http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160726/biz/00m/010/002000c

外電は「毎日」の続報を大きく転電した。生前退位という天皇陛下のご意向を受けて、今年5月から「オモテ」と呼ばれる宮内庁幹部2人、「オク」と呼ばれる侍従職幹部2人に皇室制度に詳しい人物を加えた計5人でひそかに検討が始まっていたという内容だ。もはや宮内庁の否定声明を信じるものはなく、関心は皇室典範改正の手続きに移っている。
誰が、なんのためにリークしたのか
さて、"透視術"でこのニュースの流れを読んでみよう。そもそもNHKのスクープから始まったのだから、誰かがNHKにリークしたのだ。では、誰が、なんのために、なぜ今なのか。「誰が」はわかる。宮内庁の周辺には、天皇陛下にきわめて近い立場の5人の秘密委員会メンバーがいるのだ。記者クラブもある。
「なんのために」だろうか。NHKの一報と新聞各紙の続報はほとんど同じ内容だが、ひとつ違う点があることにお気づきだろうか。
NHK報道は、生前退位のご意向をもたれた動機について「天皇陛下は(82歳のいまも)憲法に規定された国事行為をはじめ数多くの公務を続け」ておられるが、「憲法に定められた象徴としての務めを十分に果たせる者が天皇の位にあるべきだ」とお考えになったと報じている。天皇陛下のお言葉を引用する形で「憲法の務め」を果たす重要性が2度も説かれている。
新聞各紙の本記にはこのお言葉がない。NHKにリークした「誰か」は、天皇陛下の「憲法」への思いをNHK記者にじっくりと、以心伝心で伝えたのだ。事実関係の確認に走る新聞社の記者にはその辺の機微を感じ取る余裕はなかったであろう。
戦争放棄をやめると"国事行為"が増える?
憲法」といえばNHKスクープの2日前、11日の各紙朝刊1面は参議院選挙の結果だった。「改憲勢力3分の2超す」(毎日)、「改憲4党3分の2に迫る」(朝日)などの見出しで、衆参両院で改憲勢力が優位を占め、憲法改正が現実問題になったことを伝えていた。
天皇陛下が毎朝、新聞を丹念にお読みになることはよく知られている。改憲勢力が伸びたことになんらかの感想を抱かれたとすると、それがNHKへのリークに反映され「憲法の定め」を強調する報道になったのではないか。憲法を改正して戦争放棄をやめると天皇の国事行為が増えることになる。「宣戦布告」だ。それは困るというお言葉が聞こえるような気がする。