中国の裁判 市民救済を阻む弾圧 - 朝日新聞(2016年8月8日)

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これは裁判の名を借りた弾圧というべきだ。「国家政権転覆」という罪名によって、中国の弁護士や人権活動家らが相次いで有罪となっている。
前代未聞の事件だった。市民の権利を守る活動をしてきた弁護士や活動家ら300人以上が昨年7月、一斉に拘束された。1年が過ぎてようやく公判が開かれ、周世鋒弁護士(51)ら4人に有罪判決が下された。
周氏らは消費者被害や冤罪(えんざい)事件などで市民の側に立ち、救済を進めてきた。周氏の事務所を中心に弁護士、活動家らが連絡を取り合い、情報発信していたことを当局が危険視したとみられる。
判決は、周氏らが「国家政権転覆の発言を繰り返し、世論を利用して政府を敵視するよう仕向けた」と認定した。しかし、そんな言いがかりめいたことで有罪になるとは、もし中国が法治国家であるならば、全く筋が通らない話だ。
拘束が長期に及び、取り調べ過程が不透明な点も問題だ。
裁判で4人は罪を認めたと伝えられている。これとは別に保釈された別の弁護士は、過去の言動を反省する様子が香港メディアで報じられた。
いずれも過酷な取り調べによって、自白を強いられた疑いがぬぐえない。この間、家族は接見が許されなかった。
これは司法手続きの形をとっているが、当局による人権侵害行為にほかならない。司法の不公正と闘う人々が、不公正な司法に裁かれるのは、なんともやりきれない。
この弁護士らが、困窮する市民に手を差し伸べ、権利擁護に奔走してきた存在だったことを考えれば、中国社会全体の人権状況に与える影響も大きい。このままではまともな弁護士がいなくなる。
改革開放後の歴代政権が、これほどの弾圧に乗り出したことはなく、習近平(シーチンピン)政権の強権ぶりは際立つ。経済発展とともに力量をつけてきた市民社会に対する政権側の警戒感の表れという面もあるだろう。
「国家政権転覆」とは、国家の基である社会主義制度を倒すことであり、要するに中国共産党の一党支配を揺るがすことを意味する。この体制の下では、司法をも共産党が指導下に置くのが当然とされてしまう。
では、共産党政権とはいったい何のために存在するのだろうか。労働者、農民、老若男女一人ひとりがよりよく生きることに寄与するためではなかったのか。政権が弾圧を強めるほど、疑問は深まるばかりである。