(筆洗)『また逢いましょう』 - 東京新聞(2016年8月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016080602000132.html
http://megalodon.jp/2016-0806-0932-31/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016080602000132.html

英国の往年の名歌手ヴェラ・リンさんは、御年九十九歳。七年前にベスト盤が全英アルバムチャートで一位となり、史上最高齢での“売り上げナンバーワン”を記録したお方である。
彼女の代表曲の一つが、一九三九年に発表された『また逢(あ)いましょう』。<♪また逢いましょう どこかも知らず いつかも分からないけれど きっと また逢えるでしょう いつか ある晴れた日に…>
その年の九月、第二次世界大戦が勃発した。「また逢いましょう」という言葉の裏には、「もう逢えぬかもしれぬ」という暗い予感が張り付いているが、ヴェラさんはあくまで優雅に朗々と歌い、人々の心をつかんだのだ。
この歌を恐ろしく効果的に使ったのが、一九六四年に公開されたスタンリー・キューブリック監督の映画『博士の異常な愛情』である。正気を失った米軍の司令官が、核攻撃の命令を出す。米ソ首脳部は全面核戦争と人類の破滅を避ける道を探るが…
映画の最後、次々と立ち上るキノコ雲の不気味な映像とともに歌が流れる。<♪また逢いましょう どこかも知らず…>。核は世界中の「また逢いましょう」を消す力を持つのだ。
八月六日は、過去の悲劇をただ悼む日ではない。世界には現在、一万五千発以上の核弾頭がある。私たちが何げなく口にする「また…」という言葉の裏には今も、核の恐怖が張り付いている。

博士の異常な愛情」ラストシーン Dr.Strangelove
♪また逢いましょう どこかも知らず いつかも分からないけれど きっと また逢えるでしょう いつか ある晴れた日に…
https://www.youtube.com/watch?v=0DZi32deTzA