ウルトラの50年 伝えたいことがある- 東京新聞(2016年7月28日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016072802000139.html
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ウルトラマンがM78星雲から飛来してこの夏で五十年。チャンネルは変わっても、系譜はいまだ途切れない。正義について、平和について。伝えたいことがたくさんあるから、故郷の星へ帰れない。
半世紀前の七月、お茶の間に彼は現れた。巨大さ、強さ、シンプルで未来的な、その外見だけではない。スーパーマン水戸黄門に代表される、単純な勧善懲悪、明快な正義の人とはひと味違う。
ウルトラマンは、初めて出会う、悩み、戸惑うヒーローだった。
ウルトラマンは怪獣の殺し屋ではありません」
ウルトラマンの生みの親とも言われる脚本家、亡き金城哲夫さんは、語っていたという。
時に怪獣に同情し、人間の自分本位に嫌悪を感じ、怪獣と人間のはざまで悩んだりもしてしまう。
金城さんは、大戦中の沖縄生まれ。本土復帰前、単身上京して高校、大学を卒業し、初期シリーズのメインライターになった人。
異世界に独り投げ込まれ、ウチナー(沖縄)とヤマト(日本)のはざまで心揺らした日々が、遠い異星で迷いつつ戦い続けるヒーロー像をはぐくんだのか。
長年、ウルトラマンを国語の授業に取り入れてきた北海道苫小牧市の中学教諭、神谷和宏さん(42)は「正義にもいろいろあると、子どもたちに伝えたかった」とふり返る。「価値観の異なる多様な正義が集束し、問題解決に向かっていく姿」を、ウルトラマンの物語世界から読み取った。
金城さんの遺伝子は後のシリーズにも受け継がれ、生きている。
ウルトラマンガイア(一九九八年)には、二人のウルトラマンが登場する。人類の味方のガイア、地球の味方のアグル。二人は時にせめぎ合い、物語は両者の調和を描く。ウルトラマンコスモス(二〇〇一年)は、怪獣そのものの存在を受け入れて、殺傷せずに、無害化して共存する立場を取る。
正義か悪か、好きか嫌いか、多数派か少数派か、「この道しかない」と対立軸を突きつけて“敗者”をスッパリ切り離し、否定してしまいがちになる時代。
そのせいなのか、今夜食べるものさえコンピューターに決めていただくような思考停止状態も広がっている。
こんな時代だからこそ、ウルトラマンは「正義にもいろいろあるよ」「道は一つじゃないんだよ」「自分の頭と心で考えようよ」と、叫び続けているのだろうか。

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(筆洗)その少年にパン屋のおばさんはパンを売ろうとしない - 東京新聞(2016年6月20日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20160620#p13

沖縄の苦悩込めたウルトラマン 那覇出身の脚本家・上原正三さん - 東京新聞(2016年6月12日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20160612#p1

ウルトラマン屈指の異色作 沖縄出身脚本家・上原正三さんが挑んだタブー - 沖縄タイムズ(2016年3月27日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20160328#p1