検察誤認起訴 “イロハのイ”ができず - 東京新聞(2016年7月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016072502000130.html
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起訴された男性二人が犯人でないことがわかり、東京地検が公訴を取り消した。写真で容疑者を特定する「面割り」に頼り、間違った。客観的証拠がないのに起訴に踏み切る検察の安易さに驚く。
「捜査のイロハのイができていなかった」「捜査不十分」「情けない」−。東京地検の幹部が漏らした言葉だ。犯人でないことを理由に公訴を取り消すという事態は異例である。それほどまでにおそまつな捜査だったといえる。
二年半前の傷害事件だった。東京都八王子市内で、深夜に四十代の男性二人が外国語を話す複数の男に殴られたり、蹴られたりして、それぞれ二週間と一カ月のけがを負った。犯人はタクシーに乗って逃げた。
警察は今年三月に中国籍の会社経営者二人を傷害容疑で逮捕した。二人とも容疑を否認していたが、東京地検立川支部は同罪で起訴した。このとき決め手としたのが、写真による「面割り」だった。目撃者に何枚もの写真を見せて、容疑者を特定する捜査手法である。証拠らしいものは、それら目撃情報しかなかったようだ。
六月の裁判が始まる前に、弁護側がタクシー会社に問い合わせたところ、ドライブレコーダーの映像が残っていた。そこに映っていたのは、全く別の三人組の姿だった。会話をする言語も、中国語ではない外国語だった。つまり起訴された二人は犯人ではない−。
二人は無実だと言っていたし、アリバイがあることも主張していた。犯行時間に居酒屋から別の店に移動して飲食していたのだ。それらの言い分が捜査当局になぜ聞き入れられなかったのだろう。犯人だと決め付けて、聞く耳を持たなかったのではないか。
仮に犯人だと疑ったとしても、客観的な証拠を集めなかったのは致命的である。逆に言えば犯人でないから客観証拠がないのだ。弁護側に指摘されるまで、捜査側はドライブレコーダーの映像を確認してもいなかった。ずさんな捜査が繰り返されている。
過去の失敗から検察は、数々の教訓を読み取ったはずである。証拠を十分に収集することは当然として、それに対して冷静で多角的な評価を加えなければならない。
「イロハのイ」の誤りであるからこそ深刻なのだ。慎重さが足りなさすぎる。
ぬれぎぬを着せられた二人の身柄拘束は約百日にも及ぶ。その重大さをかみしめねばならない。