(余録)米東部のバーモント州が今月から遺伝子組み換え食品の表示を義務付けた… - 毎日新聞(2016年7月24日)

http://mainichi.jp/articles/20160724/ddm/001/070/147000c
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米東部のバーモント州が今月から遺伝子組み換え食品の表示を義務付けた。全米初の試みだ。「日々口にする食品の原料がどう作られるのかを知りたい」という消費者の声を食品業界の圧力が封じる状況に風穴をあけた。他の州にも広がる勢いという。
バーモント州はもともと住民の意識が高く革新的だったわけではない。風土を変える第一歩は、バーニー・サンダース氏による44年前の挑戦だったと言われる。小さな地域政党から上院議員選に出て得票率2%で惨敗した。
挑み続けて1981年、州最大の都市バーリントンの市長になった。それでも、市議会の抵抗で1年間は仕事ができなかったと「バーニー・サンダース自伝」(大月書店)は書く。地道に市民の支持を広げ、市議会でも勢力を得て公約実現に動く。低価格住宅の提供や警察組織の拡充、芸術文化の振興などを実行し、住民本位の地域政治を進めた。
その後、下院、上院議員と転じ、この1年は民主党の大統領候補指名をヒラリー・クリントン氏と争い、「時の人」となった。不屈の精神、公正や平等を重んじる姿勢は長い苦闘で身につけたものだろう。
彼の足跡は、地域や国の政治がどうやって、どのくらいかけて変わるかを物語るようだ。自伝には「私が政治に真面目だとしても、アメリカ国民よりも私の方が真面目だとは思わない」とあり、政治の主役である市民への敬意がにじむ。
指名争いで25歳以下の8割に支持された彼の戦いは、あすからの民主党全国大会で終わる。しかし、その遺産はいずれ米国の、世界の変革を起こす波を生むのではないだろうか。そう予感させる。