(余録)力ずくの政権奪取を狙うクーデターは… - 毎日新聞(2016年7月20日)

http://mainichi.jp/articles/20160720/ddm/001/070/280000c
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力ずくの政権奪取を狙うクーデターは、日ごろ制度の中で争われる政治の対立をむき出しの力の対決に変える。そこでは政権側がクーデターへの対抗を口実にして力ずくの現状変更を図ることがある。
戦前日本の2・26事件は陸軍内部の皇道派(こうどうは)青年将校によるクーデター未遂だったが、それを制圧した軍中央の幕(ばく)僚(りょう)が日本政治を公然と動かすきっかけにもなった。統制派(とうせいは)と呼ばれた幕僚らは事件後初の内閣の閣僚人事に介入し、また軍部大臣現役武官制を復活させた。
後者は軍部が気に入らぬ内閣をつぶす道具に用いられたから、これも一種の軍による奪権クーデターだろう。カウンタークーデターとはクーデターに対抗して行われるクーデターをいう。むき出しの力が政治に持ち込む毒の怖さはその後の戦争にいたる歴史が物語る。
放送局占拠という古典的クーデターがネットによる大衆動員に敗れたトルコ軍のクーデター失敗だった。驚いたのはエルドアン政権がこれまでに拘束した約7500人には司法関係者らも含まれ、内務省財務省などの1万人を超える公務員が解任されたという話だ。
人命を奪った軍事行動の真相解明は厳しくて当然だが、やや手際のよすぎる非軍人の大量拘束や解任である。欧州からはクーデターを口実とした強権政治への懸念が聞こえてくる。「力には力を」はクーデターの論理、「暴力には法を」が現代国家の存在理由だろう。
難民問題やテロ対策で今や欧州や中東の命運を握るともいえるトルコの安定だ。クーデターで放たれた非日常の暴力を一刻も早く法の支配の下へと封じ込める政権の賢慮は世界が求めていよう。