参院選 公約の検証 言いっ放しを許すな - 東京新聞(2016年7月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016070902000169.html
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各党は票を得るために聞こえの良い政策ばかり並べているのではないか。増税先送りを喧伝(けんでん)しても負担増は語らない。公約を検証する仕組みがほしいけれど…。
英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票が卑近な例だ。離脱派のリーダーは投票前、英国がEUに支払っている拠出金が週に三億五千万ポンド(約四百八十億円)に上ると強調した。しかし、離脱が決定すると「あれは間違いだった」とあっさりと訂正。EUから分配される補助金などを差し引くと一億数千万ポンドという残留派の主張が正しいと認めた。
投票直後に公約を訂正するのは論外だが、各党の公約が実現可能なのかを事前に検証し、投票の判断材料として示す仕組みが必要なのではないか。あるいは当選後に公約に掲げていないことを強引に進めるようなことも防止できるかもしれない。
諸外国では各党のマニフェストを検証し評価する仕組みがある。たとえばオランダでは、政府内に政治的に強い独立性が与えられた経済政策分析局(CPB)といった機関がある。
各党から選挙前に提出されたマニフェストについて、コストや経済に与える影響度を調べ、矛盾点があれば指摘する。減税など甘言ばかり並べれば財政赤字が拡大すると厳しく批判することもある。歳出・歳入、税や社会保険料の負担、経済成長率など多岐にわたって各党の主張を一覧で示し、国民が投票の参考にできる仕組みだ。
日本でも以前、言論NPO構想日本などの政策提言組織が各党のマニフェストの比較分析を試みた例はある。だがマニフェストは一時のブームに終わり、下火となってしまった。そもそも各党の公約は抽象的な内容にとどまり、オランダのような厳密な分析に耐えられる内容になっていない。
さらに中立な分析を担うべき公務員や政府機関が、そうなっていない問題も大きい。海外の財政政策に詳しい田中秀明・明治大教授は「公務員の幹部人事を一元管理する内閣人事局が安倍政権でできてから政治の影響を受けやすくなった。政治から独立した中立機関の評価でなければ判断材料にふさわしくない」と指摘する。
公約評価の仕組みづくりは一足飛びにはいかないだろうが、甘い政策を並べる無責任な選挙を改めるには歩を進めていく必要がある。それは公正な政治、国民のための政治につながるはずだ。