母、祖母殺害の罪 横浜の少年 「刑罰より矯正」更生の道探る:神奈川 - 東京新聞(2016年7月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201607/CK2016070702000154.html
http://megalodon.jp/2016-0707-1043-03/www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/list/201607/CK2016070702000154.html


横浜市戸塚区の自宅で母親と祖母を刺殺したとして殺人罪に問われた少年(16)を、「少年院で矯正教育を受けさせ、更生を図らせることが相当」との理由で家裁移送とした先月下旬の横浜地裁決定は、全国的に極めて珍しい判断だった。裁判員らは刑罰での更生に限界を感じ、保護処分に可能性をみて判断したとみられる。 (猪飼なつみ)
少年法では、十六歳以上の少年が故意に人を死亡させた場合、原則逆送するよう定めている。殺人罪に問われた少年は当時十五歳だったが、横浜家裁は「刑事処分が相当」と判断して逆送した。
裁判員裁判の被告人質問で少年は母と祖母を殺害したことは認めたが、動機を問われると「話すものが存在しない。興味がない」と突っぱねた。反省や後悔の言葉もなく、「社会に出るのは嫌だ」と口にした。
一方で、質問の意味が分かっていないようなやりとりも多くみられた。例えば、弁護人が「どういうときに家族に怒られたか」と問うと「どういう?」と聞き返し、具体的な状況を一つずつ質問すれば答えた。裁判員は少年の様子に「最初は戸惑った」と振り返る。
少年の鑑定人は「情緒が未発達で、自分の感情を十分理解できていない。コミュニケーションが困難」「どうして? という問いにどう答えていいか分からない」と説明した。
決定は、少年の精神面の問題について、生来的な要素と、情緒的な関わりの少ない家庭で育った成育歴の両方の影響を指摘。「更生には少年院で個別的な矯正教育を受ける方が効果的」と結論づけた。
 裁判員らは決定後の記者会見で「少年を見て、言いたいことを言葉にできない何かがあると感じた」「鑑定人とは信頼関係を築けているように思えた。そこに可能性を感じた」と語った。そして全員が「事件と向き合って更生して戻ってきてほしい」と口にした。
二〇〇九年に裁判員裁判が始まってから家裁送致の決定は今年四月までに全国で七件のみ。駒沢女子大の須藤明教授(犯罪心理学)は「厳罰化の流れの中で、更生のために踏み込んだ意義のある決定」と評価する。「応報的な処罰では反省できない人もいる。保護処分に反省や更生の手掛かりを求めたのだろう」説明。決定が少年院送致が相当とした点について、「一対一で情緒的な交流を安定させることが処遇の一歩になる」と話した。