東京地裁「横浜事件」国賠認めず 「法施行前の責任なし」- 東京新聞(2016年7月1日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201607/CK2016070102000135.html
http://megalodon.jp/2016-0701-1035-20/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201607/CK2016070102000135.html

戦時中最大の言論弾圧とされる「横浜事件」で有罪判決を受け、再審で免訴が確定した元被告二人の遺族が、国に計一億三千八百万円の損害賠償を求めた国家賠償訴訟の判決が、三十日、東京地裁(本多知成裁判長)であった。判決は特高警察による拷問や、裁判記録の廃棄を「違法行為」と認定。一方で公務員の違法行為について、当時は国に賠償責任を負わせる法律の施行前だったことから「国が責任を負う根拠がない」として、請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
訴えたのは、出版社「中央公論社」社員だった故木村亨さんの妻まきさん(67)と、南満州鉄道(満鉄)調査部員だった故平舘利雄さんの長女道子さん(81)。
判決は、当時の特高警察による取り調べについて「竹刀で多数回殴りつけるなど拷問で自白を強制しており、違法行為だったことは明らか」と指摘。「拷問の事実を認識しながら、二人の有罪判決を確定させており、検察官や裁判官にも不十分で違法な対応があった」とした。
また、保管が義務付けられた裁判記録が存在しないことについては「裁判所職員による何らかの関与の下、廃棄されたと推認できる」との判断を示した。
その上で「当時は公務員の違法行為について国に賠償責任を負わせる法律が施行(一九四七年)前で、国が責任を負う根拠がない」として、国の賠償責任は認めなかった。
原告側は、有罪、無罪を判断しないまま再審公判を打ち切った免訴判決の違法性も主張したが、判決は「再審で無罪判決を得ることで二人の名誉回復が実現できると考える遺族の心情は理解できるが、免訴判決で有罪判決は効力を失い、法律上不利益は回復された」と退けた。
判決によると、木村さんと平舘さんは一九四三年五月、治安維持法違反容疑で神奈川県警察部特別高等課(特高)に逮捕され、有罪判決が確定。
二人の死後、再審で免訴判決が二〇〇八年に確定し、横浜地裁は一〇年に刑事補償を認める決定を出した。
◆原告「生きている限り闘う」
判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した木村まきさんは「司法の犯罪は、司法自らの手で裁かれなければならない。生きている限り闘っていきたい」と気丈に語った。
二〇一二年十二月の提訴から三年半。計十八回に及んだ口頭弁論での準備書面や証人尋問の内容に自信を持っていただけに「勝訴を確信していたのに逃げられた。司法の姿勢を疑わざるを得ない」と憤った。
「おかしいぞ」「ふざけるな」。午後一時十分、東京地裁六一一号法廷で請求を棄却する判決が言い渡されると、法廷内に怒号が飛び交った。地裁正門前では弁護士が「不当判決」と書かれた紙を掲げた。
横浜事件> 雑誌「改造」に共産主義を宣伝する論文を掲載したなどとして、1942〜45年、編集者ら約60人が神奈川県警察部特別高等課(特高)に治安維持法違反容疑で逮捕された言論弾圧事件。取り調べ中の拷問で4人が獄死し、終戦直後に約30人が有罪判決を受けた。